「時速7キロ」ウォーキングのすすめ
まずは10分でもいい負荷はランニングの半分
健康のためにさまざまなスポーツをしている読者がおられると思います。
会社を退職してからマラソンを始め、60代でどんどん自己記録を更新されているような方も見かけます。
ただ、各種調査で「ふだんやっているスポーツは何ですか?」と聞くと、まず間違いなく1位に挙がるのがウォーキング。それぐらい日本では身近で手軽な運動として人気があります。特にシニア世代になればなるほど、ウォーキングをされている方が増えます。
私たちアシックス スポーツ工学研究所も「いつまでも元気で過ごすために、どんなスポーツをやればいいですか?」と聞かれたとき、ウォーキングをおすすめしています。
もちろん理由があります。身体への負担が他のスポーツに比べ小さいからです。まずはランニングとウォーキングにどんな違いがあるのかを考えましょう。
「フォースプレート」という装置があります(写真)。人間が地面から受けている力を精密に測定する装置です。簡単に言うと体重計の一種ではあるのですが、普通の体重計が垂直方向の力だけを測定するのに対して、フォースプレートは前後方向や左右方向にかかる力も測定することができます。

このフォースプレートを使って、時速12キロでランニングしたとき地面から足に受ける力と、時速5キロでウォーキングしたとき地面から足に受ける力を、調べてみました。
片足のかかとが着地してから、その足のつま先が離れるまでの区間(接地期)、人間は地面からどのように力を受けているのかを表しています。

ランニングの波形は高い山が一つになります。これがボールが跳ねるように、ポンポンポンポンと続いていきます。
左に少しだけ突き出た小さな山は、着地したとき、足にかかる力。山の頂点は、蹴り出す瞬間です。この二つの瞬間に大きな負荷がかかるということです。このとき体重の2~3倍の力が足にかかります。
一方、ウォーキングの波形は、それに比べると低い山が二つ並ぶ形になります。

ランニングと違って、両足とも地面を離れる瞬間がありません。片足だけつく時間と両足ともにつく時間があるため、力の大きさも山の形もランニングと違いが出るので
す。
二つの図の縦軸の「地面反力」を見比べてください。これは足にかかっている最大負荷を表しています。ウォーキングでは体重の約1・3倍しかかかっていません。ランニングの半分程度の負荷なのです。
地面から足に受ける力が小さければ、それだけ故障の発生リスクも少なくなります。ひざや足首の怪我をしにくいし、土踏まずに負担がかからないぶん、アーチ(図)も崩れにくくなります。ウォーキングのほうが身体にやさしいというのは、こうした理由からです。

たまに「健康診断でメタボって言われたから、痩せるためにランニングを始めました」とおっしゃる方がいますが、体重に比例して足にかかる負荷は増えていくわけですから、体重が重いままの状態で、いきなりランニングを始めると、ひざや腰を痛め
る可能性があります。
体重の重い方は、まずはウォーキングで足慣らしするのが賢明です。少し体重が減って、ランニングに移行したければ、そのとき決めればいいと思います。まずは怪我を避けることが最優先と考えています。
私たちがこのような人からアドバイスを求められたら、「そこまでランニングにこだわる必要はないのでは?」と言うと思います。
ウォーキングでもやり方さえ工夫すれば、ランニングに匹敵する運動効果が得られるからです。では、どう歩けばいいのか?