大停電の千葉で私を襲った、老親世代との「想像を絶するトラブル」

館山市に暮らす作家の「私的体験報告」
こかじ さら プロフィール

「保険? そんなもん入ってないよ」

9月15日(日)大停電7日目

願いも空しく朝から大雨、ブルーシート張りが間に合わなかった家も多く、復旧が遅遅として進まない状況に業を煮やしつつ、街全体がどんよりとした空気に包まれていた。

 

義姉の実家がある布良地区は未だ停電中。幾度となく繰り返された説得にも応じることなく、彼女の父親は電気の通らない自宅に留まり続けている。

「何を言っても聞かないし、本人の好きなようにすればいいのよ」

もはや諦めムードだ。ただ、そうは言っても、屋根の修繕など放っておくわけにもいかず、「保険の証書、わかるようにしといてね」と確認すると、

「どこに仕舞ったかわかんねえよ」

思わぬ答えが返ってきたという。どういうこと……? 義理姉と父親とのバトルも第2段階へと進んでいた。

もしかして、あの家も……。嫌な予感がしたので、自宅近くに住む80代後半の叔父夫婦の家へ行き、「今回はたまたま被害を免れたけど、いつ何時、何が起こるかわからないんだから、保険とかわかるところにまとめておいた方がいいよ」と伝える。

「保険? そんなもん入ってないよ」

どこかで予想していた返事が返ってきた。

子どものいない年金暮らし。何かあったとき、どうするつもりなのだろう。これ以上突っ込むと気が滅入りそうだったので、それ以上は何も言わず叔父宅を後にして自宅に戻ると、耳が遠くなってきているため、常に驚くほどの大音量でテレビを観ている両親の会話が茶の間から聞えてきた。

「この雨じゃ、ブルーシート張りが間に合わなかった家はたいへんだろうね」
「今の若いもんは講釈ばっかり言って身体を動かさないからこういうことになるんだ」
「ホントそうだよね。私らが若い頃は、こんな風になる前にとっととやったもんだよ」
「ウチの子どもたちも口ばっかりで役に立たないんだから困ったもんだ」

役に立たなくてすいませんね。声を出さずに突っ込むと、二階にある自室に向かって階段を一気に駆け上がった。

お隣からの電話に面食らう

9月16日(火)大停電9日目

午後6時、スーパーへ買い出しに出掛けると、「お宅は大丈夫だった?」と、知人に声を掛けられる。

「おかげさまで、ウチは……。お宅は?」
「ウチも大丈夫なんだけど。富浦の実家がさあ」

何かを話したくてウズウズしている様子だ。

「ご実家、たいへんなの?」

聞いてしまったが最後、「そうなのよ。屋根瓦が半分くらい落ちちゃったんだけど、古い瓦だから今はもう作ってないらしくて。ブルーシートだって、ウチの父親、免許証を返納しちゃってるから、私が市役所にもらいにいって。届けても、当然って顔しててさ」と、一気呵成に話しはじめた。

「しかも、聞いてよ。保険に入ってないとか言いだして」

どこかで聞いたような話だ。

「だからといって、ウチだって引き取れないわよ。舅と姑が健在なんだからさ。しかも、ウチの両親えらく頑固で、私や妹の話を一切聞かないんだもん。前から、家の中にわけのわからないモノをたくさん溜め込んであるから、断捨離してって頼んでたのに、まだ使えるとか言って捨てなくてさ。結局、今回、雨漏りでビショビショになって、腰が痛いから動かせないとか言うから、私と妹で運び出して。この1週間、停電以上に親とのバトルでもうクタクタよ」

「そうなんだ、それはたいへんだったね。じゃあ、また」

もっと話したそうな彼女を残して、そっとその場を離れた。

バトルが繰り返されていたのは家族間だけではない。

今回の台風で、市原にあるゴルフ練習場の鉄骨がネットごと倒壊し、複数の近隣住宅を直撃した事例を情報番組が取り上げ、天災なので保障の義務はないというようなことを放送しはじめた直後に、友人から聞いた話だ。

彼女の家では、お隣の屋根が飛んできてガレージが潰れ、自動車のフロントガラスが割れて、ボンネットがへこんでしまったという。

そこへ、お隣から電話がかかってきた。

「テレビでも言ってたように、ウチは、法的にも保障しなくていいそうですから」

友人は、突然そう言われて面食らったとこぼしていた。

「しかも、自動車保険入ってますよね」とまで言われたそうだ。

「別に、こういう災害の場合お互いさまなんだから、端っから損害賠償請求しようなんて思ってないのに、そういうこと言う? しかも、ご近所同士で、ときどき家庭菜園で作ったトマトやキュウリお裾分けしてたのに。ガレージや自動車が潰れたことより、そっちに腹が立って、昨日は眠れなかったわよ」

友人は怒りを収められずにいた。