1日170トン増える「原発汚染水」は海に流すしかないのか

次の世代にツケを回さないために
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安全性を巡る対立

もうひとつの理由が、トリチウムの安全性に対する懸念だ。ジャーナリストの田原総一朗氏は、「汚染水に含まれるトリチウムを有害だと主張する人たちがいる」と話す。

「放射線治療の第一人者である北海道がんセンター名誉院長の西尾正道医師が、トリチウムを大量に放出しているカナダのピッカリング原発周辺で、子どもたちを中心に小児白血病などの健康被害が報告されていると主張しています。

また、'03年には、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんがトリチウムを燃料とする核融合炉は安全性と環境汚染の観点から極めて危険だという嘆願書を当時の小泉純一郎総理に提出しています。

今回問題提起をした原田前環境相は、この二人の主張を踏まえたうえで発言しているわけではないでしょう」

安全性に疑問を呈する声があり、なおかつ風評被害が懸念される。答えが出ないまま、処理水の問題は放置されてきた。

しかし、貯蔵量が限界を迎えるタイムリミットは刻々と迫っているのも事実。現実的に考えれば、処理水の処分については、松井市長のように「海洋放出賛成派」が多数派だ。嘉悦大学教授の高橋洋一氏はこう語る。

「トリチウムの海洋放出は世界中で行われているんです。トリチウムが放出するβ線のエネルギーは小さく、被曝のリスクも極めて小さい。

トリチウムの人体への影響は、他の放射性物質に比べて非常に小さいため、国際的に、海洋放出しても問題ないとされています」

元経産官僚で、『日本中枢の狂謀』などの著書がある古賀茂明氏は東電の発表内容を慎重に受け止めるべきだと言う。

「処理水は海洋放出すればよいという計画は'11年の震災直後からありました。トリチウム自体を問題視する専門家は少ないでしょう。

しかし、実は処理水にはトリチウム以外の放射性物質も含まれています。東電はその放射性物質は『検出限界以下』と言うが、本当なのか。その濃度や総量の第三者による再検証が必要です。東電や政府はウソを重ねてきましたから」

 

今すぐでなくても、タンクの数を増やし、一定期間が経過した後に海洋放出するという選択肢もある。NPO法人原子力資料情報室・事務局長の松久保肇氏が語る。

「トリチウムは約12年で半減期を迎えます。例えば120年間処理水を貯めておくと、その中のトリチウムは1000分の1程度にまで減少する。そこまで長期間ではなくても、ある程度保管すれば、だいぶ減るのです。

タンクの数を増やすことも可能でしょう。福島第一原発の周囲にある中間貯蔵施設用地や、サイトの中の土捨場などは、やり方によっては処理水の保管場所として使用することができる可能性があります」