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カエサル、ヘルウェティイ族に快勝する

【5分de名著】カエサル『ガリア戦記』訳:國原吉之助②
「講談社学術文庫」の名著を読んでみよう!前回に引き続き『ガリア戦記』をご覧ください。カエサルが人気である属州ガリアに赴くと、武勇でしられたヘルウェティイ族との緊張が高まる事態となった。味方であるハエドゥイ族との調整にも苦慮しながら、いよいよ戦いに突入していく――

約束を守らない同盟部族にイライラ

 二 ヘルウェティイ族との戦い

15 翌日ヘルウェティイ族は、その場所より野営を引き払う。同じようにカエサルも陣営を壊し、約四千の騎兵全員を先発させ、敵がどの方面に進んで行くかを偵察させることにした。この騎兵隊は、属州全地域とハエドゥイ族やその同盟部族より集められていたものである。

 騎兵隊は、敵の後尾をあまりしつこく追跡しすぎて、戦略上不利な場所において、ヘルウェティイ族の騎兵とわたり合う。わが軍は、わずかだが死者を出した。この合戦でヘルウェティイ族は鼻を高くした。五百の騎兵で、あれほどたくさんの騎兵を撃退したのであるから。それでいちだんと大胆となり、時には踏みとどまり、後尾だけでわが軍に挑戦を始めた。

 カエサルは味方に戦闘を差し控えるように命じ、目下のところ、敵の略奪と糧秣(りょうまつ)徴発と破壊行為25を封じておけば、それで十分であると考えた。こうしてほぼ十五日間、旅をし敵のしんがりとわれわれの先頭との間隔が、八キロか九キロ以上離れていないところまで来た。

16 その間にもカエサルは、ハエドゥイ族にたいし、彼らが当局の責任で約束したからといって、穀物の供出を毎日のように催促していた。気温が低いため、──というのも、ガリアは、先にも述べたように、北に位していたので──26畑の作物はまだ実っていなかった。のみならず、秣(まぐさ)すらも十分な量だけ調達できなかった。

 一方では、せっかくアラル川を遡上させて船で運んでいた食糧も、ほとんど利用できなかったのである。それというのも、ヘルウェティイ族がアラル川の線からそれて行進をつづけていたし、カエサルは敵からあまり離れることを欲しなかったからである。

 ハエドゥイ族は一日一日とカエサルとの約束をおくらせていた。いま集めているの、いま輸送中であるの、いまに到着するのとかなんとかいって。ついにあまり長く待たされることに気づき、そして、食糧を兵士に配給せねばならぬ日が差し迫っていたので、ハエドゥイ族の著名な指導者を召集する。

 彼らの大半は、ローマの陣営に暮らしていたのだ。この中にディウィキアクスリスクスがいた。後者はハエドゥイ族が、「ウェルゴブレトゥス」とよぶ最高の官職についていた。これは任期一年で、同胞部族にたいし生殺与奪の権限をもっていた。

 カエサルは彼らが援助してくれないのはなぜかといって語気鋭く責める。「穀物を買うことも、畑から持ってくることもできないでいるとき、こんなに危害が迫っている非常時に、敵がすぐ目前にいるというのに、いやなにより、そもそもこの戦いを引き受けた原因の大半が、お前らの嘆願に心を動かされたというのになぜだ」そして、「お前らは予を裏切ったのか」と今までになかったほど烈しく非難する。

17 このときついに、リスクスは、カエサルの雄弁に感動し、それまでだまっていた秘密を洩らす。「民衆の間で非常な権勢を誇っている者が何人かいる。その者らはみな私人でありながら官職にあるわれわれよりも幅をきかせている。こいつらが、煽動的で不埒千万な言辞を弄し、大衆を不安がらせ、義務づけられている穀物を集めさせないのだ。

 たとえば、ハエドゥイ族がもはやガリアでの指導権を握れないとすれば、ローマ人の支配よりヘルウェティイ族の支配に耐えるほうがまだしもだ、ローマ人はヘルウェティイ族を征服してしまうと、他のガリア人と一緒に、ハエドゥイ族からも、自由を奪いとることは、間違いないとかいって。

 やはりこの者らにより、あなた方の計画や、ローマの陣営で起こっていることなどがみな、敵に知れているのだ。彼らをわれわれの力で制御するなど、とうていかなわぬ相談だ。いや、それどころか、カエサルに進んで打明けねばならぬことを強制されてやっと告げたというのも、そうすることがどんなに危険なことか、自分はよく知っていたからだ、だからこそ、これまで長いこと沈黙を守ってきたのだ」


(25)「略奪と糧秣徴発と破壊行為」rapinis pabulationibus populationibusque(ω)CLO.〔rapinis〕MK. rapinis pabulationibusque S.
(26)「──というのも、ガリアは……──」この挿入句をMKはdel.