アメリカで話題「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」とは一体何か

「アーメン」ではなく「ラーメン」
岡本 亮輔 プロフィール

こうした宗教批判はFSMに限ったものではない。他にも、見えざるピンクのユニコーン教(Invisible Pink Unicorn、以下IPU)がある。見えないけどピンク――神は人間には見えない存在であるにもかかわらず、その姿形も含め、これまでキリスト教がいかに勝手な神イメージを作り出してきたかを批判しているのだ。

IPUは無神論者用のジュエリーショップを展開している。そのサイトによれば、米国では、無神論者はモラルを欠いた悪人と見なされ、社会的に孤立してしまう。こうした社会的偏見を打破し、無神論者同士のつながりを示すために、IPUのシンボルをかたどったジュエリーを身につけようというのである。

 

実のところ、今回FSMの牧師が祈りを捧げたアラスカ州では、誰が公的な場で祈れるのかをめぐる裁判が数年にわたって行われ、昨年、その判決が出されていた。

従来は、議会が認めた宗教団体の代表者だけが会議前の祈りを行えると取り決められていた。それに対して、非キリスト教の人々が訴えを起こし、昨年10月、アラスカ州最高裁が取り決めが違憲であるという判決を出したのだ。そして、郡の住人で事前に申請した者であれば、誰もが祈りを執り行えるようになったのである(参照:Anchorage Daily News)。

判決後、2019年に予定されている20ほどの会議の祈りに対して、またたくまに事前申請が集まった。それらには、キリスト教の牧師に加えて、無神論者や魔女団体の信者、そしてFSMの信者が含まれていた。

そのなかでも、悪魔寺院(The Satanic Temple)の女性信者による祈りは退席者を出すなど物議を醸した 。あからさまに反キリスト教的な悪魔を集団名に掲げるのだから、伝統的にキリスト教信者にはショッキングだろう。ウェブサイトも、キリスト教圏では邪神のシンボルとされるヤギと魔法陣が浮かび上がる。

しかし、悪魔寺院も、その名前とは対照的に、悪魔を崇拝するカルト団体ではない。彼らの目的は、キリスト教が米国で大きな力を持ち、例えば人工妊娠中絶が認められないなど女性の自己決定権を侵害している現状を問題化することにあるのだ。

建国の経緯から、米国では長らくキリスト教が大きな影響を持ってきた。現在でも、先進国では唯一といってよいほど宗教が活発だ。

だが、他の先進国同様、若い世代を中心とした宗教離れは着実に進んでいる。世論調査会社ギャラップによれば、プロテスタント信者が米国人口に占める割合は、1955年頃には71%だったのに対し、2017年には47%に激減している。さらに、若年層の3割以上が無宗教であることを自認している。

アラスカ州での奇妙な祈りは、キリスト教国家という米国の暗黙の前提が崩れつつあることを示唆していると言えるだろう。