数学は、詩や絵画と同じように、美しくなければならない。イギリスの数学者ハーディはそう考えた。
「美が第一の条件である。この世には醜悪な数学に永住の地はない」(『ある数学者の生涯と弁明』より)
映画『レインマン』の主人公と同じサヴァン症候群であるダニエル・タメット氏には、数字を見ると形や色、質感、動きが思い浮かぶ「共感覚」がある。
「1という数字は明るく輝く白」で、「5は雷鳴、あるいは岩に当たって砕ける波の音」、「89は舞い落ちる雪」だ。
そしてタメット氏が「言葉にできないほど美しい」と感じるのが円周率(π)。
「モナリザの絵やモーツァルトの交響曲のように、πそれ自体に愛される理由がある」(以上『ぼくには数字が風景に見える』より)
数学といえばどうしても、難しい、つらい、苦手というイメージがある。数学や数が、詩や絵画、音楽のように美しいと感じられるのは、ハーディのような数学者や、タメット氏のような特殊な能力の持ち主など、特別な人だけ。そう思うかもしれない。
ところが、イェール大学の数学者スタイナーバーガー氏とバース大学の心理学者ジョンソン氏は、ごく普通の人々でも、複雑な数学の美しさを絵画などと同じように味わえることを明らかにした。
スタイナーバーガー氏らの実験では、数学者ではない普通の人々に、数学の証明問題4つと、風景画4点のあいだで、美しさの観点で似ている組み合わせを作ったり、それぞれの美しさをさまざまな尺度で評価したりしてもらった。
この実験から、普通の人々が風景画の美しさと同じように、数学の美しさも直感的に理解していることがわかったという。美しさを感じるときに、数学と芸術に違いはないということだ。
この実験で使った数学の証明問題の1つが、次のような無限に続くたし算(無限等比級数)だ。
この「美しさ」は、図にするとわかるかもしれない。