その存在はリアルかファンタジーか
優しすぎる妻を演じた“後味”

この映画の場合、いくら言葉でストーリーを追ったところで、その映像から受ける衝撃の方がずっと大きい。海馬と綾子が大きなすれ違いをしていることがわかる映画のクライマックスでの、夫婦の心情について、行く末について中山さんに聞いてみた。

「どうなるんでしょう。私がもし綾子だったら? 時間はかかるかもしれないけれど、ちゃんと海馬と向き合うと思います。結局、この夫婦はお互いに愛を感じていながら、それぞれに孤独を抱えていたんでしょうね。でも、人と一緒にいても孤独を感じてしまう瞬間って、人間、誰にでもあるものなんじゃないのかな。

海馬は、信じていた妻に裏切られた思いが強かったんでしょうけど、それまでも、『不自由ない暮らしをさせていれば大丈夫』というような、男性特有の驕りがあったのかもしれない。だって、女性が求めているのは贅沢な暮らしなんかじゃなくて、日常を潤してくれるちょっとした“ときめき”なんだと思うんです。私も綾子と同じで、日々のときめきは大事にしたい。アイドルやダンサーじゃなくても、毎日、大好きなペットとたくさんスキンシップをとるだけでも、美容にいいっていいません(笑)? 綾子もきっとそのレベルだったと思います。だから、どんなに好きな人のダンスを見てときめいても、一線は超えなかった……」

55歳の海馬は、映画の中でとてもエネルギッシュだ。体力の衰えは感じながらも、「まだまだイケるはず」と、仕事もセックスも諦めることをしない。中山さん自身、来年50歳になるが、海馬とは真逆で、身の回りにある様々なものを“手放す”“整理する”ことを考え始めているという。

「“終活”というほどではないですが、身の回りをシンプルにしていきたいんです。『やらなきゃ』と思うだけで実際はやってないけれど(笑)。すべてにおいて、『もっともっと』『あれもこれも』という煩悩のようなものから、どんどん解放されているのは確かです。若い頃の私は、すごく頭でっかちで、自分の殻を打ち破りたいと、そればかり考えていました。インプットばかり欲してた。

でも、岩井俊二監督の『Love Letter』とか、竹中直人さんと夫婦役を演じた『東京日和』のような作品と出会えたことで、面白い仕事を一つ一つ丁寧にやっていけばいいんだと思うようになったんです。今はもう、私を必要としてくださるのなら、どんな役でもお引き受けしたい。私を必要としてくださる人の気持ちに全力で応えたい。どんな現場でも飛び込みたい。そういう気分です。舞台にも挑戦しましたし、ある意味怖いものなしです(笑)」