綾子は優しいだけじゃない。
強かでズルい部分もあると思います。

40代になってからの、彼女の役者としての願いはただ一つ。いい作品に出ることだけだ。若さや美しさにしがみつくことでもなく、悠々自適の生活を送ることでもない。これといって欲しいものもない。「これはあくまで私の場合ですが」と前置きしながら、「年齢を重ねていくうちに、自分自身の“こだわり”みたいなものからどんどん解放されるようになりました」と言ってにっこりと微笑む。

「今はただ、いい作品と長く付き合っていけたら、それで十分」と。

逆に言えば、「いい作品」という言葉を聞くと、その熱意についほだされてしまうということ。R18指定のこの映画で、中山さんは、監督からのあらゆる要求に、文句ひとつ言わず応じたのだそう。

映画の中で綾子は、SNSを通して若いコンテンポラリーダンサーとの浮気を、夫に疑われる。夫は復讐のために、そのSNSに“いいね”のついた数だけ女を抱くという計画を立てる、それが108人。後半、海馬が自分の乱交している現場を綾子に見せつけるシーンで、綾子は、「こんなに傷つけちゃったのね」と呟く。自分の負った心の傷よりも、夫の心情に想いを馳せる綾子。それは、男が心に描く女神像を投影させているような気もするのだが。

「あの台詞に対して、私と同世代の女性から、“綾子はいい人すぎるのでは?”という感想も聞きました。ただ、私は、綾子の優しさって、男性から見れば怖いんじゃないかな、なんて思ったりもします。私自身、普段から共感する部分を探して役を作っていくというより、役は、常に自分とは別の人格だと思っていて。演じながら綾子に共感とか反発とかを感じたりはないんです。

ただ、完成した作品を見て、綾子は実はしたたかだなとは思いました。精神的には、海馬の方がずっと弱い。だって海馬は、妻に裏切られて心に空いた穴を埋めるために、常軌を逸した行動に走るわけですが、綾子は愉快犯というか……。SNSに写真を挙げた時点で、自分の寂しさを夫に気づいて欲しかったのかもしれないですし。優しいんじゃなくて、ズルいのかもしれませんね」