「最大の強み」が裏目に出た
そしてもう1つは、キャラクター人気に振り回された局面があったこと。ライセンス取得によって人気キャラクター商品を扱えるという、マルチウ最大の強みが裏目に出たかたちだ。

2015年3月期の年売上高は約23億5400万円で、前期比38%増。つまり一時的に売上が伸び、営業段階(売上高―売上原価で算出される売上総利益から販管費を引いた額)で黒字転換を果たした。これは、当時大ブームとなっていたアニメ番組「妖怪ウォッチ」を用いたサンダルの販売増によるものだ。
翌期もブームは続くと見たマルチウは、同じキャラクター関連の商品を多数仕入れた。
しかし予測に反して、ブームは早くも一巡して鎮静。目論見が外れたことで、2016年の年売上高は前期を9億円も下回る、約14億3600万円に急減した。
立て直しを図るため、海外生産委託先の見直しや人件費などのコスト削減に注力するものの、肝心の売上減少には歯止めがかからず、ついに2018年8月28日に民事再生法の適用を申請。くしくも会社設立から50年を迎えた矢先の出来事であった。
販路も技術力も申し分なかったマルチウ産業は、こうして倒産に追い込まれた。
その最大の盲点は、移り変わる世情や市況に応じて、製造体制や価格設定などを変更し続けなければならなかったことだ。同社の事例は、企業を取り巻く環境の変化をつぶさに観察し、ときには創業以来のこだわりから脱する必要もある、という教訓をはらんでいる。