まどかと山本のパワーバランスの不均衡

異類婚姻譚において、人間と人ならざる者の結婚は「一方がもう一方に影響されて変容する」ことを意味する。たいていの場合、連れ去られた娘は男性と同じく人ならざる者の一員になるか、自分がこの世に留まるために男性を殺す。

まどかは山本に連れ去られ、「狐」になってしまうのだろうか。

まどかの変容の予感は無数に散りばめられている。第一に、人ならざる者の存在が疑われない世界観。山本との邂逅の日、まどかは耳と尻尾よりも、不自然な軽装よりも、「とりあえず、どタイプ!」という点に一番大きくリアクションしている。彼の正体を知った日も、年齢が270歳であることの方に強い衝撃を受ける。

第二に、序盤で「オカルト」という言葉が使われている。康輔がまどかに助言することで狐の神秘性が強調され、禍々しい存在である可能性さえ仄めかされる。

第三に、まどかは普通の人間である。金曜の夜にはピンクのニットを着て、合コンへ行く。心理学者がテレビで「恋愛にはピンク」と言っていたからだ。彼女は知らない誰かにいつのまにか用意された「女性らしさ」を疑問を持たず受け入れる

一方で、山本は強い力を持っている。「狐王国」で彼は地位も名誉もある王子だ。実家では山本の両親もまどかをもてなし、彼らがコロニーを形成していることを推測させる。

第四に、まどかは山本に貰った食べ物を複数回口にしている。一ヶ月の中で、二人が食べ物を与えあう描写は合計6回あるが、

まどか→山本 …1回(ナッツ)
山本→まどか …5回(甘栗、お稲荷さん、お茶、焼肉、パーティのお稲荷さん)

と圧倒的に山本が勝っている。

昔話のセオリーでは、異世界の住人に貰ったものを食べることは、その世界との同質化と同義である。さらに、まどかが山本にお稲荷さんを作って食べさせようとするも、寝坊して機会を逃す描写まである。このアクシデントはまどかと山本のパワーバランスの不均衡を示している。

……フラグが立ちすぎている。

「CLASSY. 2019年10月号」より

案の定、まどかは9/22の時点で半分狐になっている。山本家のパーティに誘われ、Amazonで購入した耳と尻尾を装着するのだ。さらに「気分は狐王国の一員よ(ハート)」「ドラキュラみたいに噛まれたら狐に…ってなったらいいのに」と自分が狐になることを自ら示唆している。

まるで、相手に合わせて自分が変わっていくことに胸を高鳴らせているようだ。やっぱり彼女は「狐」となり、「人間」としての人生を奪われてしまうのだろか。