私たちは「ポジティブであること」を、絶対視していいのだろうか

こころの「良さ」とは何だろう
小塩 真司 プロフィール

その流れが変わったのは、1990年代から21世紀に入るころであった。それは、勤勉性が高い人々の方が低い人々よりも、職業上のパフォーマンスが良く(Barrick & Mount, 1991)、学業成績が良く(Propat, 2009)、過度な飲酒や喫煙をしない健康な生活を営み(Bigg & Roberts, 2004)、長生きをする傾向がある(Friedman et al., 1995; Friedman et al., 1993)など、現実社会で適応的な生活を送る傾向にあることが示されてきたからである。

勤勉性に関連した、あるいはそこから派生するような概念も今では数多く研究されている。たとえば、基準に合わせたり目標を達成したりするために自分自身をコントロールする自己制御、目標に向けてやり抜く力であるグリット(Grit)、さらにマシュマロ実験でも知られる、将来のより大きな報酬を得るために目の前の報酬をがまんする満足遅延耐性などである。

これらの心理的な傾向はいずれも、現代社会の中でより大きな成功に結びつくと言われるものである。そしてこれらはいずれも、勤勉性との間に大きな関連を示す心理特性なのである。

もちろん、概念を扱うのは我々人間である。しかし、視点を概念そのものに置くと、現実社会をうまく説明する概念はより生き残り、うまく説明できない概念は消えていくように見える。ときには、何年も経ってその有用性が理解されるようになる概念もある。あたかも論文の中、学問の中、社会の中でそれぞれの概念が生存競争をしているように見える点も興味深い。

 

「良い概念」は、社会の状態に左右される

このように、「良い概念」として受け入れられることのひとつの条件は、その概念が好ましそうな社会的結果に結びつくことにある。言い換えれば、その概念をより多く備えている人物は、備えていない人物に比べて、より好ましい社会的な結果を示すということである。

ただし、ここでもやはり、その好ましくポジティブな社会的結果とは何かということに注意が向けられる必要がある。

勤勉性が高い人は低い人に比べて平均的に少しだけ長生きをする、だから勤勉性は良い特性なのだという意見がある。それは長生きをすることが社会的に好ましいことだ、というコンセンサスがあるからである。

学業成績が良いことも、職業をうまくこなすことも、他の人々と円滑な人間関係を築くことも、それらは社会にとって望ましいことだという合意があり、ある特性がそれらを一定の確率で予測することが示されるからこそ、その特性概念は「良い」とされるのである。