私たちは「ポジティブであること」を、絶対視していいのだろうか

こころの「良さ」とは何だろう
小塩 真司 プロフィール

当然のことであるが、概念そのものは目に見えない。「明るい性格」を例に挙げてみよう。「明るい性格」や「暗い性格」を自覚したり、周囲の人の振る舞いから感じたりすることはあるだろう。ところが、ある人物が明るい性格だからといって、その人が物理的に光るわけではない。「明るい」「暗い」というのは、なんらかの行動を説明する、抽象的な一種の比喩表現である。

「概念」で行動を説明し、予想する

心理学的な概念は何のために用いるのだろうか。それは、何らかの行動や行動の結果を予測することが期待されるためである。

たとえば学力が高いとされる個人は、低いとされる個人と比較して、学校での勉強や成績、学力試験でより良い点を取ることが予想される。そして、実際にそのような結果を残す傾向にある。

またたとえば、知能を測定する知能検査はもともと、小学校に進学する前の子どもたちが学校で十分に教えられる内容を理解できるかどうか、学校の授業についていけるかどうかを予測するために開発された検査がもとになっている。そしてある程度は、その予測に成功することもこれまでの研究で示されている(Roth et al., 2015)。

そして外向的な人は、一人でいるよりも複数の人と一緒にいるときの方が心地よく感じ、刺激の少ない場所よりも騒々しかったりワクワクさせてくれたりするような場所を好み、明るくポジティブな感情に彩られているように見えることが予想される。そして実際に、研究のなかではそれらに関連するような行動が予測される。

このように、多種多様な行動を説明したり予測したりするものとして、概念は用いられる。そして、現実の行動を説明することができるとわかると、その概念の有用性が一気に認識されるようになる。そして中には、研究が行われていく中でもともと想定していなかった現実との関連が明らかになることもある。

 

「勤勉性」は、かつて重視されていなかった

そのような経緯をたどった代表的な概念のひとつが、勤勉性(誠実性、Conscientiousness)というパーソナリティ特性である。勤勉性は、規律やルールを重視し、将来の目標を設定し、その目標に向かって努力するような傾向を表す「まじめ」という表現がぴったりなパーソナリティ特性である。勤勉性は現在、ビッグ・ファイブ・パーソナリティと呼ばれる人間の基本的なパーソナリティ特性のひとつとして重要な位置を占めている。

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ところが1990年代前半まで、勤勉性は基本的なパーソナリティ特性のひとつとして発見されてはいたものの、ほとんど注目されることもなく、パーソナリティ分野の「厄介者」という扱いすらされていたという(タフ,2013)。まじめでルールを守るという保守的なニュアンスのパーソナリティ特性が、リベラルな志向性をもつ心理学者たちの興味関心を引きつけなかったという背景も、そこにはあったようである。