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認知症の父と介護する息子…超高齢化社会の「家族の姿」を描く難しさ

『老父よ、帰れ』作者の久坂部羊が語る

認知症を知らなすぎる

──久坂部さんの新刊『老父よ、帰れ』。45歳の壮年サラリーマンである矢部好太郎が、認知症の父を老人ホームから自宅マンションに引き取る決心をする。意気込む好太郎ですが、現実には様々な困難、トラブルが巻き起こり……。介護の現場を知る医師でもある久坂部さんが、認知症の在宅介護についてリアルに、かつユーモラスに描いた小説です。

私は認知症をとりまく世の中の状況を見て「もったいない」と常々思っているんです。

高齢化に伴い、認知症の患者数はどんどん増加しています。しかし、これだけ社会的な問題になっているのに、その症状や介護の実態について、あまりに知られていない。

 

認知症のことを知らないからこそ、家族や周囲の人は不安になったり、イライラしてしまう。多くの人にとって親の介護は初めての経験ですから、知識がないことはあたり前で、失敗も避けられない。それがもったいないなと。

私が見てきたもの、経験を還元できれば、そんな人々の助けになるのではないか。医療に期待しすぎてはいけませんが、少しでもハッピーにすることはできます。

実際に、同じく認知症介護をテーマに書いた『老乱』は、読者からの評判がすごく良かった。同書では、老いへの不安や介護疲れという暗い側面が強かったので、今度はユーモラスな小説にしたかったんです。

──好太郎は、認知症医療の権威・宗田道雄医師の講演会で「認知症を治したい、これ以上悪くしたくないという思いのせいで、家族は介護に失敗する」そして、「感謝の気持ちと敬意が重要」だという話を聞いたことをキッカケに開眼、父の在宅介護に踏み切ります。

宗田医師は、私が大学で一緒に働いた医師をモデルにしています。実は好太郎が聞いた講演は、『老乱』の終盤にも描いているんです。認知症介護で散々辛い思いをした主人公が、「こうすればいいのか」と学び、物語は終わります。

それについて、ネットでは「そんなにうまくいかないだろう」とレビューされたんです(苦笑)。「では、その講演から物語をはじめよう」と思って書いたのが、この小説です。