止められない「和牛流出」なぜオーストラリア産が世界を席巻したのか

実は数十年前から始まっていた
時任 兼作 プロフィール

もはや、すべてが遅かった

こうした状況を前に、EU(欧州連合)は『TRIPS協定』に先立ち、1992年に独自の法律を制定。原産地の名称を保護する制度を設けて、その誤用や盗用の排除を徹底した。ところが、日本は同協定締結まで何の対策も講じなかったばかりか、締結後も国内法によるフォローアップを一切、行わなかったのである。

「ありていに言えば、日本には盗用を排除する法律がなかった」

農林水産省関係者は、当時をそう振り返る。こうした中、前述のような流出に加えて、さらなる事件まで発生した。1995年、北海道の畜産業者が米国やオーストラリアに子牛や受精卵、精液を輸出し、これを機に米豪での和牛の生産が加速されたのだった。

 

日本政府がようやく重い腰を上げたのは、それから20年後。2014年6月になって「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」が制定され、翌2015年6月から地理的表示保護制度の運用が開始されたのだった。

しかし、もはやすべてが遅すぎた。中国による和牛の盗用が立件されたのは今年だったが、事件が発生したのは、実はこの最中のことだった。

「問題はそれだけではなかった。この法律にも不備があり、不正輸出を防げるものになっていなかった。日本の関係当局も盗用に目を向けることなく、中国への流出が起きていることに気づきもしなかった。冒頭で触れた事件を当局が把握できたのも、たまたまだ。

事件が発覚したのは、中国の税関で持ち込みを拒否された畜産農家が日本に持ち帰る際、税関に申告したからだ。それでも不正輸出を直接取り締る規定がなかったため、すぐには立件できず、手続きの不備を理由に家畜伝染病予防法違反と関税法違反の容疑でようやく逮捕に漕ぎ着けた」(前出・農林水産省関係者)

畜産農家が2012年以降、何度も和牛受精卵や精液の持ち出しを行っていたことが判明したのも、逮捕後の事情聴取によってであったという。