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研究者も「たった3本」で病院送り! 毒きのこ専門家の中毒体験記

食後30分で「しびれ」が心臓へと…
森のなかを歩くと色とりどりのきのこに出会う。「このきのこはなんという名前だろうか」「食べられるのだろうか」と、図鑑を調べるのも楽しいものです。

ですが、毒きのこ研究の専門家として名高い横山和正先生が研究をはじめた50年ほど前には、きのこに興味を持つ人はほとんどおらず、きのこの本も川村清一先生の図鑑くらいしかありませんでした。

さらに横山先生は研究を始めて間もないころにきのこ中毒にかかり、毒きのこの力を思い知らされました。「中毒の後には、だれでもきのこが大嫌いになります」と語る横山先生は、なぜ毒きのこの研究にのめり込んでいったのでしょう。

半世紀近くつきあっても、なかなか本心を見せない、したたかで不思議な生物「きのこ」。その魅力を語る書き下ろしエッセイ。 
(注:
文科省の規定で、生物の和名はカタカナ表記することになっています。ただし、きのこは(進化した大型の)菌類のグループで、個々の生物名ではありません。そのため、「キノコ」ではなく「きのこ」と表記します)
 

「きのこパーティ」が生んだ惨事

きのこ研究をはじめた大学院生の時に、恩師の教授が京都の修学院離宮の付近で採集したきのこを持って来て、「横山、調べておいてくれ」と言って実験台の上に置いて行きました。

図鑑で調べた結果、シビレタケの仲間ということがわかりました。しかし、顕微鏡を用いて胞子などを調べた結果、ぴったり当てはまるものはありませんでした。外国の文献も調べましたが、当てはまるものはありませんでした。

きのこに触ると、ゆっくりと青く変色しました。外国の文献には「青変するものは中毒する」と出ていました。しかし、この仲間の中毒では死亡することは少ないとも書いてありました。 

この頃は、昼間は実験したり野外調査にでかけたりして、夜になると研究室に数名が集まり、きのこ料理の得意な学生を中心に鍋をつつきながら、一杯飲みながら話し合うのが日常でした。

そこで、この先生が採ってきたきのこも、アルミホイルに包んで醤油と酢を少量加え、バーナーで蒸し焼きにして食べてみよう、ということになりました。

私は直径3cmほどの傘を持った小指大のきのこを5本、火を通して食べました。生でかじったときにあった苦味は調理すると消えましたが、それでも旨いとは思いませんでした。

食後30分ほどすると、手足がしびれてきました。そのしびれが心臓に向かって広がって行くのがわかりました。

各々が食べた量により、症状も異なりました。最もたくさん食べた学生は、調理したきのこを4本、その30分後に生のきのこを3本食べました。食べ終わって15分ほどすると、実験室の床に横たわりました。全身がしびれて、立つことも椅子に座ることもできなくなったようです。呼吸も荒くなっていきました。

研究室には数名いましたが、1本しか食べなかった学生は正常だったので、救急車を呼んでくれました。3本以上食べた学生にはすべて症状が出ていたので、近くの病院に入院することになりました。

病院に担ぎ込まれていった Photo by iStock
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病院では、重症者には下剤をのませ、強心剤を注射し、胃内洗浄をしてくれました。医師たちは「瞳孔が散大している、光に反応がない」とか、「血圧が低下している」などと話していましたが、適切な処置のおかげで、入院3時間後には全員の体調が回復し、退院できました。