きのこ研究をはじめた大学院生の時に、恩師の教授が京都の修学院離宮の付近で採集したきのこを持って来て、「横山、調べておいてくれ」と言って実験台の上に置いて行きました。
図鑑で調べた結果、シビレタケの仲間ということがわかりました。しかし、顕微鏡を用いて胞子などを調べた結果、ぴったり当てはまるものはありませんでした。外国の文献も調べましたが、当てはまるものはありませんでした。
きのこに触ると、ゆっくりと青く変色しました。外国の文献には「青変するものは中毒する」と出ていました。しかし、この仲間の中毒では死亡することは少ないとも書いてありました。
この頃は、昼間は実験したり野外調査にでかけたりして、夜になると研究室に数名が集まり、きのこ料理の得意な学生を中心に鍋をつつきながら、一杯飲みながら話し合うのが日常でした。
そこで、この先生が採ってきたきのこも、アルミホイルに包んで醤油と酢を少量加え、バーナーで蒸し焼きにして食べてみよう、ということになりました。
私は直径3cmほどの傘を持った小指大のきのこを5本、火を通して食べました。生でかじったときにあった苦味は調理すると消えましたが、それでも旨いとは思いませんでした。
食後30分ほどすると、手足がしびれてきました。そのしびれが心臓に向かって広がって行くのがわかりました。
各々が食べた量により、症状も異なりました。最もたくさん食べた学生は、調理したきのこを4本、その30分後に生のきのこを3本食べました。食べ終わって15分ほどすると、実験室の床に横たわりました。全身がしびれて、立つことも椅子に座ることもできなくなったようです。呼吸も荒くなっていきました。
研究室には数名いましたが、1本しか食べなかった学生は正常だったので、救急車を呼んでくれました。3本以上食べた学生にはすべて症状が出ていたので、近くの病院に入院することになりました。
病院では、重症者には下剤をのませ、強心剤を注射し、胃内洗浄をしてくれました。医師たちは「瞳孔が散大している、光に反応がない」とか、「血圧が低下している」などと話していましたが、適切な処置のおかげで、入院3時間後には全員の体調が回復し、退院できました。