「昭和サラリーマン発想」な窓際上司を…3年目女子社員の、ある企み
東京マネー戦記【21】2018年冬リストラ、配置転換、子会社への出向……長い低迷の時代が続き、企業は若返りとスリム化を余儀なくされている。「ぼく」が勤める大手証券会社でも、その風が吹き始めていた。そしてベテラン社員と若手の意識の乖離も、顕在化しつつあった。
証券ディーラーたちの仕事と人生、そして小さな希望を描く「東京マネー戦記」第21回。
(監修/町田哲也)
基本動作もできない奴はクビだ!
会社の人事で若返りが進んだのは、2018年のことだった。
新しく人事部から来た部長は40代半ばで、ぼくより一年先輩だった。証券会社は軒並み業績が低迷し、コスト削減を進めていた。近い将来、社内で大きなリストラが実施されることが噂になっていた。
誰の目にも、問題が海外事業にあることはわかっていた。
世界に通用する投資銀行という旗印を下ろせずに、リーマンショック後も赤字を積み上げていた。一方で、旧来型の国内の営業網だけで収益を拡大していくにも限界があった。経営にフレッシュさが求められていた。
若返りを進めるのは不可欠で、そのためには、かつて会社の業績を支えたベテラン社員のリストラが避けられなかった。部長クラスの多くがグループ会社に出向することになったが、何人かはまだマネージャーとして本社で幅を利かせていた。
やっかいなのは、マネージャーはたいてい人脈が広いので、顧客企業のマネージメント層と通じていることだった。客先とこちらの担当者とのやりとりを聞きつけては、何かと文句をつけてくるので、その対応に時間を使うことも少なくなかった。
「あのおっさん、本当にどうにかして欲しいですよ」
ぼくと同じチームに所属する山口円香が、不平をいいに来たことがあった。多村マネージャーにランチに誘われて、担当企業のことで説教されたという。山口は大学でチアガールをしていた活発さが取り柄で、はきはきと返事をする姿に好感を持っていた。
「S社のことで、文句をいわれたか?」

「文句っていったって、仕事の提案じゃないんですよ。会長の孫の誕生日にケーキを贈ってないだろって詰めてくるんです。どうにかして欲しいですよ」
「今までは、毎年プレゼントしてたのか?」
「そうらしいです。しかもゴディバの3万円もするやつですよ。誕生日なんて毎年来るのに、孫の誕生日にあんな金かけてたら、創業者一家にどんだけ使えばいいんですか? 会社の金を使うなら、もう少しボーナスを増やしてほしいですよ」
「多村マネージャーは何ていってるんだ?」
「贈りものは営業の基本だから、基本動作もできない私はクビだ、だそうです。昭和サラリーマン的な発想やめて欲しいですよ」
「担当者に文句をいいたいだけだろ。そんなのに腹を立ててたら、身体が持たないぞ」
「わかってますけど、あんないい方されると、ムカつくんですよ」
「俺からいっておくから」
ぼくが話を引き取ると、山口は小言をいいながらデスクに戻った。