〝1ヵ月に35日雨が降る〞屋久島を訪れたのは植物好きのアートディレクター黒田益朗さん。緑に苔むした屋久杉の森を歩き、キュートな子鹿やウミガメに出会ったら、ワイルドすぎる海中温泉も体験! 悠久の時と雨に育まれた、美しい水の島へ。
ウミガメが産卵する
世にも美しい砂浜へ
「冬にはブーゲンビリアとポインセチアと菜の花がいっしょに咲き誇り、雪の積もった白銀の山まで見える。同じ時間に、晴れと曇りと雨と雪が同時に起こりうるのが屋久島です」そう教えてくれたのは、屋久島観光協会の日髙順一さん。
「丸いカタチをした屋久島を時計だと考えた時、2時の位置にある屋久島空港がピーカンでも、8時の位置にある大川の滝はどしゃぶりなんていうことがあるんですよ。天気予報がまったく当てにならない」
だからまあ、突然雨が降っても気軽に楽しんで……という日髙さんに薦められ、「時計でいえば10時の位置」にある〈永田いなか浜〉へ。
ここは日本屈指のウミガメ産卵地としても知られているが、それより何より、1㎞以上も続く砂浜の美しさに心が奪われる。コバルトブルーの海が広がる海岸へ降りてみれば、ハマユウの白い花が咲き、蔓が縦横無尽に砂の上を這い巡っている。
「まるで砂丘みたい。浜の色が驚くほどきれいですね」
その砂の上に、海から浜辺へと続くうっすらした跡を見つけた黒田さん。この時期はちょうど絶滅危惧種でもあるアカウミガメやアオウミガメの産卵期。おそらくウミガメが海からあがってきた跡なのだろう。
海から離れた場所に、ふにゃりと柔らかい卵の殻が残っているのを発見したこともあり、すぐ近くに建つ〈うみがめ館〉を訪ねてみた。
「ウミガメの保護・保全を担い、貴重な資料を展示する施設」と聞いて、堅苦しいのかなと思いきや、「アカウミガメが歩く時は右手左手……と交互に動かして進むんですけど、アオウミガメは体が重いので、同時に両手をついてギューッと体を前に進める。だから砂浜にはブルドーザーのような跡がつくんです」とか、「アカウミガメは甲殻類を食べるのでアゴがよく発達して顔が大きい。いっぽうアオウミガメは海藻類を食べるのでわりとシュッとしています」「産卵 のために静かな環境を求めて上陸しても、砂が気に入らないとか、見学者や車のライトでびっくりして、産卵せずに海へ帰っていくカメもいる」など、スタッフの話がそれはそれは興味深く、あっという間にウミガメ博士になった気分。
人工孵化させて2週間ほどの赤ちゃんウミガメ(手足がぺらっぺら)まで見せてもらったところで、そろそろタイムアップ。島を発つ時間が近づいてきた。
「〈ヤクスギランド〉も〈大川の滝〉もそうだったけれど、屋久島では貴重な自然が、地元の人々の手できちんと、しかもさりげなくサポートされている。観光地然としていなくて居心地がいいですね」(黒田さん)