「好きなことを仕事にするのはすばらしい」と人は言うけれど…

失われた小説をもとめて【2】
藤田 祥平 プロフィール

サメ。

鮫である。

「あのう……」私は意を決して言った。「この、サメをください」

「はい」

揚げてもらっているあいだ、サメについて聞いた。

「あのう、サメって……ぼく、はじめて食べるのですが」

「ああ、このあたりでは、よく食べるんですよ」

何!

 

民俗学的に興味深い資料が得られるのではないか。

私のなかのミニ柳田国男が猛然と首をもたげた。

私は生唾を飲み込みながら、質問した。

「どうしてそんな風習があるんでしょう?」

「いやあ」と店主は言った。「ぼくもよく知らないんすよ。でも、スーパーとかに、ふつーに売ってますよ。子供のころから、たまに食べてました」

へぇー……。

……。

……そうなんですね……。

ちなみにサメの味は、鳥のささみによく似た食感の白身魚、だった。

おいしかったです。

それから私は三千円を支払い(安い!)、けっこう満足してしまい、バーやクラブやラウンジやスナックに寄ることさえせず、ホテルに帰って寝た。

思い返せば、このあたりで諦めて、引き返すべきだったのだ。