「好きなことを仕事にするのはすばらしい」と人は言うけれど…

失われた小説をもとめて【2】
藤田 祥平 プロフィール

平日夜の新潟、ある魚との邂逅

そして私は、新潟県上越市街に入った。

途中、日本随一の交通の難所といわれている親不知のエリアで高速を降り、この日本海の荒波に面した断崖絶壁に、なんとしても国道を通すんだ! という日本道路公団の心意気と決意を感じられる、非常に薄暗く恐ろしい国道8号線を行きながら、先人たちの努力と技術に感嘆したりしていたが、こうした感情は、そんなにインスタントに小説になるものではない。

直江津のあたりで、林芙美子の『放浪記』にも登場する「継続だんご」をお土産のつもりで買い求め、しかしよく考えると最北端から大阪に戻るまでに保つわけもないので悄然と開封して食べるなどしたあと、アルミニウムの板でインターネットを参照し、「上越唯一の繁華街!」と銘打たれた高田駅周辺をめざした。

途中、道の駅で休憩して、車内で腹を出し、林芙美子のようにへその上に十円玉銅貨を乗せて遊んだりした。

もはや行き当たりばったりもいいところであった。

日が暮れてすぐ、着いた。

人っ子ひとり、いなかった。

上越市高田、人がいなかった…

平日だからだ。

そう! 平日だから、仕方がないのだ。

さいわい、お店はそこそこやっていた。

 

何の気なしに、串カツ屋さんに入った。カウンターだけのちいさな店で、店主となにか話ができるかもしれないと思った。

店主は短い髪を金髪にした、三十そこそこの男性で、ひきしまった身体で、肌がよく焼けていた。サーファーだったのかもしれない。どうしてちゃんと質問しなかったのだろう。サーファーの登場人物の類型が得られたかもしれないのに。

あいさつをして、麦酒と、枝豆と、串カツ盛り合わせを頼んだ。紅生姜がメニューにあるのが、嬉しかった。

ぽつぽつと会話をした。

「もとは東京でやっていたんですが、いろいろ厳しくて。地元に帰ってきて、はじめたんです」

なるほど。

「ちなみにご出身は、どちらで?」

大阪です。

「えっ、じゃあ、串カツはお詳しいんじゃ」

いや、大阪よりうまいですよ。こっちの串カツは安かろう……って感じで。

「はっはっは、そうですか」

云々かんぬん。

当たり障りのない会話だった。

表面上は楽しく飲み、食いながら、私の心はまたしても絶望に浸されつつあった。

こんな会話が、いったいなんの糧になるのか。

こんな会話をもとに、どうして人の心を動かすものが書けるのか。

焦りとともに目を落としたメニューに、しかし天啓があった。