Photo by gettyimages

北朝鮮と日本「最悪のシナリオ」を招く、トランプが犯した歴史的誤算

ボルトン解任がもたらす思わぬ影響

ボルトン解任と石油施設攻撃

中東情勢が再び、緊迫している。サウジアラビアの石油施設が何者かに攻撃され、米国のトランプ大統領は「イランが黒幕」とみて、対イラン制裁を強化する構えだ。だが、元はと言えば、大統領自身が「撒いた種」ではないか。

どういうことか。

トランプ氏は9月10日、最強硬派として知られたボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任した。それが「トランプは軍事的報復をしない」というサインになって、攻撃者にサウジアラビアに対する攻撃を決断させた。私は、そう見ている。

 

ボルトン氏が解任された理由の1つは、イラン政策をめぐる大統領との確執だった。トランプ氏は9月下旬にニューヨークで開かれる国連総会を機に、イランのロハニ大統領との会談を目指していた。

ところが、ボルトン氏はイランとの関係改善につながりかねない首脳会談に反対していた。「軍事力行使も辞さない強硬姿勢を維持すべきだ」というのが、ボルトン氏の主張である。そんなボルトン氏が解任されたとあれば、攻撃者が「トランプは弱腰だ」と判断したとしても、当然だろう。

サウジアラビアへの攻撃は9月14日未明に実行された。米国との時差を考えれば、ボルトン氏解任から、わずか3日後だ。攻撃を企てた下手人からみれば、まさに「即断即決」である。そのほうが、より効果的でもあった。

トランプ氏が強硬論者を切って捨てた直後であれば、再び強硬路線に戻るには、必ず躊躇する。それでも、報復すれば「トランプ政権は迷走している」と批判も浴びるだろう。けっして攻撃を容認するわけではないが「敵ながら、あっぱれ」なタイミングだった。

今回の事態で、私は朝鮮戦争を思い出す。北朝鮮は1950年6月、北緯38度線を超えて韓国に侵攻し、朝鮮戦争を始めた。金日成・朝鮮労働党委員長に開戦を決断させた最大の要因は「アチソン演説」だった、というのが歴史の定説である。

米国のアチソン国務長官は同年1月、講演で「アメリカが責任を持つ防衛ラインはフィリピン、沖縄、日本、アリューシャン列島までだ」と演説した。有名な「アチソン・ライン」である。朝鮮半島は、この防衛ラインの外側に位置している。

金日成はこの演説を聞いて「それなら韓国を攻撃しても、米国は動かない」とみて、ソ連のスターリン首相と中国の毛沢東主席の同意と支援の約束を得て、越境に踏み切った。米国の大きな誤算だった。

安全保障の世界では、この教訓に学んで「どこから、どこまでを防衛範囲とするか」はけっして明らかにせず「あいまいにしておく」のが常識だ。明示してしまったら、敵は「ここまでなら攻撃しても大丈夫」と判断して、かえって攻撃を誘発する可能性が高くなるからだ。

残念ながら、日本ではこの常識が共有されていない。安全保障の議論が起きるたびに、野党は「政府はどこまで防衛するのか、はっきりさせよ。地球の裏側まで行くのか」と追及するのが常になっている。そんな幼稚な議論を繰り返している限り、日本は危うい。

 
この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら