3000万円の入った銀行口座
これは康介さんが認知症等の理由で判断能力が低下した場合を想定したもの。家族信託とは委託者が受託者に対して受益者のために財産の管理等を任せる契約のことをいいます。
じつは受託者は必ずしも血がつながった親族でなくても良いので、今回の場合、財産を20年分の養育費が入金された預金口座、受託者を彼女、受益者を子どもにすれば、万が一、康介さんが自分の意思で養育費を振り込むことが難しくなった場合、彼女が口座からお金を引き出し、子どものために使うことができるようになります。
遺産相続が長期化した場合、家族信託の開始事由に「死亡」を入れていけば、相続が完了するまでの間、口座のお金で子どもを育てることができます。
似たような制度に成年後見制度があります。これは被後見人の財産を後見人が管理しますが、基本的に後見人は1人です。今回の場合、彼女を後見人にして、運用中の資産(1.5億円)を管理することを康介さんは望んでいません。
同じように妻を後見人にして、養育費の口座を管理した場合、妻は彼女の養育費を支払おうとしないでしょう。このように財産の管理者を複数に分けたい場合、家族信託は有効な方法です。
こうして康介さんは認知すると書いた遺言を残し、3,000万円の入った口座を彼女に任せるという家族信託契約を結ぶことにしたのでした――。