屋久杉と苔が生み出した
緑の宝庫を歩く

270haの敷地に屋久杉の森が広がる〈ヤクスギランド〉。30分コースから210分コースまである中、遊歩道や吊り橋も楽しめる50分コースを選んだ黒田さん。/ヤクスギランド 鹿児島県熊毛郡屋久島町荒川 ☎0997-46-4015
歩きやすい遊歩道も。

最初に向かったのは、島の南東部にある〈ヤクスギランド〉。標高1000~1300mの土地に屋久杉の森が広がる自然休養林だ。散策コースの地図には、仏陀杉に双子杉、 ひげ長老にくぐり杉の文字。それってどんな杉?と想像するだけで心躍る。

苔むした屋久杉に別の木の枝や蔓が絡み、のびやかで逞しい景色を生み出している。

ちなみに屋久杉とは、樹齢1000年を超える屋久島育ちの天然杉。昔から建築材として重宝され、豊臣秀吉が京都に大仏殿を建てるのに使ったという逸話もある。

そんな森へ足を踏み入れると、空が樹々の枝で隠れ、急にひんやり涼しくなった。めいっぱい天空を仰ぎ見ても、目に映るのは高くそびえる杉とその合間から零れ落ちる光だけ。

「緑の葉を通した“グリーンの光”が上から降ってくるから、植物がいっそうきれいに映るんだろうな」と黒田さん。

「倒木の陰や落葉の下など、他の植物が育たないニッチな場所ほど美しい苔が生えている」と黒田さん。

ふと見ると、台風か暴風雨で倒れたのだろう杉の大木から、ひょろりと細い芽が伸びている。

「杉の種が偶然に落ち、倒木や苔を養分にして芽を出したんでしょう。こうやって繰り返し木が育ち、長い年月をかけて森が育まれるんですね」

一方でツガの大木には別の木の枝や蔓がうねうねと絡みつき、さらにその上を濃緑の苔が覆っている。苔ってこんなにも美しかったのか。

「ほら、ここにベルベットみたいな苔がありますよ。こっちはスギゴケかな、銀色の苔もある。水滴のついた苔がかすかな日の光で輝いて見えるのも綺麗だし、木の蔓が苔で分厚く覆われてドレッドヘアーみたいに垂れ下がっているのも面白い」

緑の苔で覆われた、数百年前のものと思われる切株。

たった数十歩進むだけで、葉の長いフデゴケから葉の密生したツガゴケ、葉縁がくるんとカールしたアミゴケまで、さまざまな苔が目に入る。しばらく行くと、緑の苔で切り口がびっしりと覆われた切株も現れた。なんと江戸時代の切株がそのまま腐らずに残ったものだという。

「水蒸気や霧で湿度が安定した、つまりは“冷蔵庫のミスト野菜室”みたいな環境だからなのかな。もちろん、苔の力も大きいと思いますけど」

屋久島は土地の基盤が花崗岩でできているため、植物が水を吸収するための地下水源がない。そこで苔が大量の雨水を蓄え、天然のダムとなって植生を守っている。「植物には人知の及ばないデザインがある。生き延びるために自らの姿をデザインしているんですね」
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PROFILE

黒田益朗 Masuo Kuroda
アートディレクター/グラフィックデザイナー。植物や庭にまつわる仕事も多く、ライフワークとして国内外の宿り木も日々調査中。宿り木とは他の樹木に着いて生育する半寄生の灌木のこと。

※屋久島へは鹿児島本港から、高速船またはフェリーでアクセス可能
●情報は、2019年9月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Masae Wako Edit:Chizuru Atsuta