ビジネスと人生を豊かにする鍵は「感動」にあった!

幸福経営のトレンド
前野 隆司 プロフィール

真の人間中心設計、幸せ中心設計へ

以上の流れを見ていくと、単に製品やサービスを買ってくれる人としての人間から、使って便利・快適だと思う人間、使った経験を楽しむ人間、さらにはそのデザインにも参加する人間、と「人間」の役割が深化・多様化していることがわかると思います。

つまり、初期の人間中心設計は、単に人間を中心に据えただけでしたが、時代を経るとともに、中心に置かれた人間の認知や行動といった経験に、より深くフォーカスする方向へと変化しています。

この延長線上には、感動し、満喫し、共感し、フローに入り、幸せになるために生きる人間の姿があると、私は思うのです。

つまり、真の人間中心設計では、中心に置かれた人間が、心からやりたいことをやって、豊かに幸せに生きるとはどういうことであり、そのために製品やサービスは何ができるのかが問われるべきだと思うのです。

真の人間中心設計とは、感動中心設計、幸せ中心設計なのです。

製品やサービスに直面した人は、感動という体験をするのみならず、幸せという人生の目標に向けて、長期的な経験をし続けます。そこに、つまり、人生に、どこまで影響を与えた製品やサービスを作り得たか、ということが問われる時代が、目の前に迫っていると思うのです。

実際、産業界でも、感動が重視される傾向が見られます。それはそうですよね。消費者に感動を与えない製品・サービスよりも、感動を与える製品・サービスの方が、売れそうですし、そもそも、人々の幸せに寄与しそうです。

幸福経営から見たトレンドとは?

幸福学研究をしている私は、時代の変化を多面的に感じています。このため、このトレンドは間違いのないもので、引き返しようのないものだということを、強く感じています。

二つほど、例を挙げましょう。

一つは、モノによる豊かさから心の豊かさへ、というトレンド。これはすでに何十年も前から起きていることです。

国民生活に関する世論調査によると、「モノの豊かさと、心の豊かさと、どちらが大切ですか」という問いへの日本人の答えは、一九七〇年代後半――今から四〇年も前――に逆転して以来、心の豊かさ派が増え続けています。この流れはさらに加速するでしょう。したがって、製品やサービスを開発する者は、これまで以上に、その製品・サービスが心の豊かさにいかに寄与するかを考慮すべきだと言えるでしょう。利用者に感動を与える製品・サービスというのはその一つです。

 

もう一つは、幸福経営というトレンド。

近年の経営学の動向を紹介しましょう。世界最大規模の経営学会であるアメリカ経営学会は、一〇部屋くらいで五日間にわたって学術研究の発表が行われるという巨大な学会です。一〇部屋のテーマは、戦略やマーケティング等、経営学の中のさまざまな分野なのですが、一部屋分くらいは、ウェルビーイング(幸せ)やマインドフルネス(瞑想等に基づいて今の心の状態を整える手法)のセッションに当てられるようになっています。つまり、合理的、戦略的に利益を得ることが目的の一つである経営学会でさえも、新たなトレンドとして、従業員や顧客の幸せやマインドフルネスを考え始めているのです。まさに、人間中心経営。幸福経営。