香港証券取引所の変節
しかし、世界の証券取引所が大型中国株を引き込もうと競争する中で、香港証券取引所は従来のポリシーを曲げてもいる。
例えば、ガバナンスの問題だ。
実はアリババは、2014年の最初の株式公開を、当初香港で検討していた。しかし、経営陣が取締役会の過半数を指名する「パートナー制」をアリババが採用しており、これが「1株1議席」の原則に合わないとして香港証券所の方が上場を認めなかったのだ。
アリババの「パートナー制」に似たものに、グーグルの親会社のアルファベットやフェイスブックなどが採用する「種類株式」(または、複数議決権株式dual class share)がある。種類株とは、同じ1株でも創業経営者らの持つ株には普通株主の何倍もの議決権が与えられるものだ。
種類株については、企業乗っ取りを防ぎ、短期的なノイズに惑わされずに視野の長い経営が可能になると、メリットを説く声もある。ただし一般株主からは、同じ一株に「貴族」と「平民」のような支配力の差があるのでは、株の世界の民主主義が蹂躙されるという反発も上がっている。ガバナンスの観点からは、取引所が種類株を野放図に認めることは一般株主の保護にはつながらないはずだ。
しかし、アリババのIPOをニューヨークに持っていかれたことが、相当こたえていたらしい。香港証券取引所は昨年、「一株一議決権」という従来の原則を曲げて、種類株の発行を認めてしまった。
これで、スマホメーカー小米(シャオミ)などの中国テック企業が種類株を持ったまま上場することが可能となり、香港証券取引所は昨年、IPO総額357億ドル(約4兆円)と、ニューヨーク証券取引所やナスダックを抜いて世界第一位となった。
また香港は、中国個人マネーの取り込みも期待する。
資本規制の厳しい中国では一般市民の外貨への両替さえ厳しく制限されており、これまでは認可を得た機関投資家しか外国株には投資できなかった。中国人が中国ネット株の代表格であるアリババ に投資したくとも、上場先が米国で投資できない、という事態になっていたのだ。
しかし、今年7月からは、ストックコネクトを通じて中国本土の個人投資家が、人民元を使ってシャオミなど、香港上場の中国株に投資できるようになった。証券口座に50万元以上を持つ富裕層に限られるが、アリババが香港に上場されれば、中国本土の個人投資家がこぞって買うだろう。