乙武義足プロジェクトが進行している。膝がない、腕がない、歩いたことがないという自らの「三重苦」と闘いながら、乙武氏は歩行練習に励んでいる。

義手を装着することで、乙武氏は一時立つことさえできない苦境に陥る。その後も、バッテリー、ソケット、足部、靴……義足のパーツの軽量化が次々と進められた。そうした変化への対応は想像以上に困難なものだったが、歩行練習を進めるうちに、乙武氏の歩行に「変化」が現れはじめた――。

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内田氏が喜びの声を上げる

梅雨明けが遅かったせいだろうか、8月になると一気呵成に猛暑がやってきた。
汗かきの私にとっていちばん苦手な季節だが、そんなことにはおかまいなく、真夏の日々も歩行練習に明け暮れた。

撮影/森清

「いい調子ですね」
背後に立つ内田氏から声がかかる。
地道な練習が花開こうとしていた。義足の軽量化が追い風になり、みぞおちを意識して上半身をうまく使いながら足を振り出すことで、歩行スピードが上がり、歩行距離も伸びていった。

「あの反応」が私の身体に起きたのも、このころのことだった。
前に出そうとした左足が床に引っかかり、後ろに転びそうになって身体のバランスが崩れたその瞬間、右足がさっと後ろに出て、転倒を回避することができたのだ。

ステッピング反応です!」

内田氏がうれしそうに声を上げた。
「いまの動きをステッピング反応と言います。歩行中、片方の足に体重がうまく乗らずに前後左右に倒れそうになったとき、それを防ごうとする反対の足の動きのことですが、うれしいなあ、やっと出てくれましたね」
この動きは、両足のある人なら1歳半から2歳ぐらいで自然に身につくものらしい。私の歩行は、43歳の夏にしてやっとそのレベルに達したということだろうか。