死亡で議論過熱…「電子タバコ」いま何が問題なのか

「グレー=悪」として叩く風潮
美馬 達哉 プロフィール

電子タバコの社会学

だが、医療社会学的に電子タバコを文化や社会という面から見れば、ここには社会の価値観や道徳の問題が影響しているとわかる(4)

ちょっと哲学的な話になるが、私たち人間はものごとを白黒や善悪や男女などの二分法で見る傾向を元々もっている。

ニコチンの場合も、「悪いニコチン=タバコ」と「良いニコチン=ガムやパッチなど治療薬」との二分法がしっくりくるわけだ。

善悪二分法のもとでは、魅力的で快楽を与えてくれるニコチンは「悪いニコチン」なので、快楽はその後に生じるかもしれない健康被害によって帳消しにされるべきだと見なされる。

それは、頭の中にある道徳的な会計簿のようなものだ。

 

米国でCMや映画から喫煙シーンは排除され、タバコの魅惑そのものが徹底して抑圧されているところには、禁煙運動がたんなる健康啓蒙と健康増進を目指しているのではなく、禁欲的な道徳主義と関連していることが示されている。

悪と治療薬の間の曖昧な存在として登場した電子タバコというニコチンは、味も見た目のデザインも多様に魅力的で若者を惹きつけ、しかも紙巻きタバコより遙かに安全となると、快楽には代償が必要という道徳主義を裏切ってしまうことになる。

だからこそ、いま健康被害の可能性が表面化してからは、「それ見たことか」とばかりに電子タバコに対する過剰なまでに激しい感情的とも思える非難が集中しているのではないか、とも感じられるのだ。

健康被害のリスクには予防原則で対応するのがベストであるものの、グレーなものを一方的に悪としてバッシングする風潮には、そんな道徳主義の嫌な臭いを感じてしまう。

(4)Bell & Keane 2012, Nicotine control: E-cigarettes, smoking and addiction. Int J Drug Policy 23:242-7.