フレーバー論争の背景
禁煙運動の力が強くなっている2010年代に利用が広がった電子タバコは、当初から賛否の対立が激しい論争のもとにあった。
賛成派は、ハーム・リダクションによって、電子タバコは喫煙者に「より害の少ない」喫煙経験を提供していると論じる。
それに対して、反対派は、フルーツやメントールのフレーバーで偽装することで、青少年を新たにニコチン依存や喫煙者にさせるための「入り口(ゲートウェイ)」ドラッグだと非難している。
次に賛成派は、青少年の電子タバコは反抗期特有のもので成人になって継続的に使用するわけではなく、さらにニコチンガムやニコチンパッチと同じように喫煙者の禁煙補助にも役立つと反論する。
すると反対派は、喫煙者は紙巻きタバコと電子タバコを併用しているだけだし、電子タバコが禁煙に役立つという研究結果はタバコ企業が資金提供したものばかりで、利益相反のため事実かどうか信じられないと再反論している。
賛否両論あることは世の常としても、電子タバコ賛成派にとって一番不利なところは、喫煙者ではない若者にアピールしやすいフレーバー電子タバコは何のために存在しているのかというところだ。

青少年の電子タバコ使用の蔓延は、規制当局の担当者が「疫病」と呼ぶほどに、米国で問題視されてきた(3)。
本当にハーム・リダクションだけが目的なら、喫煙者向けにタバコ・フレーバーだけでも十分なはずだ。また、嗜好品ではなく治療用の医薬品の一種なのだから顧客アピール度を追求する必要は最低限で良い、というのは正論だろう。
だが、こういう理屈だけでは現実には無力で、さまざまなフレーバーやクールな吸引用具デザインで電子タバコの売り上げ増大に突き進むのが市場の論理だ。
こうした文脈で「味や香り付き電子タバコの禁止」という方針は規制当局の中でずっとくすぶっていて、死亡という健康被害をきっかけに表面化したに過ぎないのだ。