9歳の子に不妊手術を…!? 被害者男性が、国家と戦う決意をした日

封印していた怒りと悲しみが蘇った
佐藤 光展 プロフィール

あまりに遅すぎた救済

それからの1年は、まるで嵐のようだった。

国家賠償請求訴訟の原告となり、「ほかの被害者も、もっと声を上げられるように」との思いで実名を明かした。すると、マスコミが家にまで押しかけるようになった。

各社に誠心誠意対応した。道内外の集会に呼ばれ、体験を語った。だが今年4月には、地元テレビ局の記者に振り回されて、意図とは違うニュースを流された。

激変した生活リズムとストレスで夫婦は体調を崩し、倒れたことも何度もあった。それでも「伝えなければ」という思いは変わらなかった。「目障りな人」に「精神疾患」というレッテルを貼り、排除しようとするこの社会を変えるために。

 

若き日の小島さんは、ろくな診察もなく「精神分裂病」と決めつけられた。問題の根っこには、「病理なき精神医学」がある。その危うさは今も変わらない。

精神疾患を特定するために有効な検査法は未だ存在せず、精神科医が典型的な症状の有無や軽重で病名をつける。そのため、診断には精神科医の主観が入り込みやすく、デタラメな診療の被害があとを絶たない。拙著『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』『精神医療ダークサイド』で示してきた通りだ。

精神科医に悪意はなくても、患者や家族の創作話にまんまとはまり、希望通りの診断名を付けてしまうケースもある。

小島さんはタクシー運転手として働いていた頃、精神科病院まで客として乗せた母子の会話に愕然としたことがある。

母親は20歳くらいの娘に、こう話していた。「あなたがうつになればお金がたくさん入るの。うまくやってね」。母親は娘に「うつ病」の演技を強制していたのだ。

小島さんは語る。「他にも知っています。うつ病だと偽って多額の保険金をだまし取った人を。精神科はこんなことばかりです。いい加減な実態は変わらない」

優生保護法は、1996年の改正で母体保護法となり、強制不妊手術という国家の犯罪を裏付け、肯定する法律はなくなった。2019年4月には強制不妊救済法が成立し、被害者には一時金320万円が支払われることになった。

だが、証拠となる手術記録を病院や自治体が残しておらず、一時金の申請が却下されるケースも出てきた。すでに死亡した被害者も少なくない。救済はあまりにも遅すぎたのだ。

せめて96年の法改正時に、被害調査を行うべきだった。調査を求める声は20年前にも上がっていたが、国は無視した。マスコミも国民も鈍感だった。