「絶対に許せない……」
2018月1日31日朝、小島さんは北海道新聞の大きな見出しに息をのんだ。
「不妊手術9歳女児にも 半数超未成年 宮城県資料」
それまでも強制不妊のニュースには注目していたが、この記事の衝撃は桁違いだった。
半世紀以上前の記憶が、津波のように押し寄せてきた。小島さんと同じ日に不妊手術を強制された、女子中学生の悲痛な顔が鮮明に蘇った。長く封印していた怒りと悲しみが噴き上がり、体がガタガタと震えた。
「許せない。絶対に許せない」
記事を切り抜いた。しかし、具体的に何をすればいいのか。翌日まで悩み抜いた。
2月1日夜、小島さんは覚悟を決めた。「これを見てくれ」。記事を麗子さんの前に置いた。
「ああ、これ…可哀想にね」
小島さんは何か言いたげな顔をしていた。でも黙っている。麗子さんが話を続けた。
「ヒトラーと同じね。こんなことを日本人がしていたなんて、恐ろしいわね」
まだ黙っている。
「どうしたの」
小島さんは意を決した。
「俺もされたんだ。優生手術(強制不妊手術)を」
悪い冗談に違いない。麗子さんはそう思いたかった。だから「うそでしょ!」と返した。しかし、夫が他人の苦しみをそんな風に茶化す人ではないことは、よくわかっていた。
テレビニュースなどで見た強制不妊の被害者のことは、気の毒に思っていた。それでも、違う世界の話だと感じていた。ついさっきまでは。まさか夫が……。
麗子さんは新聞の片隅に、強制不妊に関する弁護士相談の電話番号を見つけた。「私はまだ信じられない。信じたくない。でも本当なら大変なことよ。弁護士さんに本当のことを伝えて」。
翌2日、小島さんは受話器を手に取った。麗子さんに見守られながら、電話の向こうの弁護士に過酷な体験を伝え始めた。
