ハリウッド史に残る「美人女優惨殺」を検死した日本人法医学者の告白

映画『ワンアポ』で話題の事件の裏側
山田 敏弘 プロフィール

激しく傷つけられた遺体

米国では、監察医制度が確立しており、人の死因を追求するための、独立した検視局が存在する。人がどのように死んでいるのか死因を究明することなく、公衆衛生などの政策は作れない。そのため、死に関連するすべてを取り仕切る検視局が、徹底して管轄内で起きた死の真実を究明する。

この事件を担当したのは、ハリウッドやビバリーヒルズなどを抱えるロサンゼルス郡検視局だった。

当時の検視局長は、トーマス・T・野口。本名、野口恒富。戦後すぐに日本医科大学を卒業して単身米国に渡り、法医学者となって検死局長に上り詰めていた日本人だ。

 

事件の翌日となる10日の朝9時半から、トーマス野口・検視局長と監察医2人は、慎重にそれぞれの遺体の解剖を行った。死因を徹底究明するためだ。

ヘアスタイリストのセブリングは、胸と背中7ヵ所を刺され、左脇の下を銃で一発撃たれていた。ポーランド人のフライコフスキは、鈍器で頭を13ヵ所も殴られ、51ヵ所も刺された傷が確認された。さらに銃弾を、背中と左脚に撃ち込まれていた。令嬢のフォルジャーは、28ヵ所を刺され、ナイフが動脈を切断するなど、致命傷は7ヵ所もあった。

どの遺体も、とにかく激しく傷つけられていた。多くの殺人現場に立ち、数々の他殺体を検視してきた野口ですら、驚くほどだった。

トーマス野口氏(1982年撮影、Photo by gettyimages)

午前11時20分、野口は最後に残った遺体の検視解剖に取りかかった。書類をチェックすると、名前欄には、シャロン・マリー・ポランスキーと記されていた。当時ハリウッドで最も注目されていた米女優の1人、シャロン・テートの本名である。彼女は前年に映画監督のポランスキーと結婚したばかりの新婚で、妊娠8ヵ月。ひとめではっきりと分かるほどお腹も大きかった。

テートの遺体はセブリングのそばで絶命しており、首にはなぜか、ロープが二重に巻き付けられていた。

検視は外景所見から始められた。167センチ、61キロ、髪はブロンドで、目は茶色。全身16カ所に刺し傷が確認できた。

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