精神科で「強制不妊手術」を受けたある男性が、脱走劇の末に見たもの

戦後日本の暗部「断種政策」の実像
佐藤 光展 プロフィール

生まれ変わろう、と思った

小島さんが逃げ込める場所は限られていた。病院がここを嗅ぎ付けるのは時間の問題だ。捕まったら、また監禁される。身体拘束や注射、電気ショックも待っているだろう。ロボトミー手術の餌食になって、もう一生出られないかもしれない。

「真面目になるから、俺を引き取ってください」

小島さんは必死に頭を下げた。

「わかった。真面目になるなら、私が引き取ってあげる」。伯母は小島さんを信じて受け入れてくれた。

 

予期した通り、複数の車に分乗して、体格のいい男たち5、6人がその日のうちにやって来た。看護師と事務職員、優等生患者もいた。「脱走犯」を捕まえる気満々で殺気立っている。

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だが、伯母はひるまなかった。男たちと気丈に向き合い、こう繰り返した。

「私が引き取ります」

「帰ってください」

押し問答がどのくらい続いたのか、緊張の極みにあった小島さんは覚えていない。結果は伯母の完勝だった。男たちは病院に引き返した。

「こんな俺でも守ってくれる人がいる」

心底嬉しかった。こんな気持ちは生まれて初めてかもしれない。「今日を境に、変わらなければいけない」と思った。

やんちゃだった過去はこれから塗り替えればいい。だが、愛する人との間に子どもをもうける能力は、もう取り戻せない。いくら恨んでも、悩んでも、戻ってこない。

新たな一歩を踏み出すために、小島さんは強制不妊手術の被害を胸の奥にしまい込んだ。

(つづく)

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