精神科で「強制不妊手術」を受けたある男性が、脱走劇の末に見たもの

戦後日本の暗部「断種政策」の実像
佐藤 光展 プロフィール

このまま人生を終えるなんて

強制断種後も、鉄格子と施錠だらけの「精神科強制収容所」から出られる気配はなかった。周囲の患者たちは「ずっと出られないよ」「10年以上入院している人もいる」などと諦め顔で言っている。

娑婆で悪さをしたことは事実だ。とはいえ、父への復讐で金をたびたびせびったこと以外は、ヤクザ同士の喧嘩を何度かした程度だった。

その償いが、精神科に強制収容され、「無期刑」と強制断種を受けることだなんて、めちゃくちゃ過ぎる。しかも未成年なのだ。

 

それまでも、辛いことばかりの人生に絶望し、小島さんの自己評価は著しく低かった。それでも、「こんな所で人生を終えるのは真っ平」だと思った。

Photo by iStock

「逃げよう」

だが、強行突破を図った他の患者たちは、幾重もの鉄格子に阻まれて、ことごとく脱走に失敗していた。それならば発想を変えて、病院を欺いてやろう。そのためには、時間をかけて「模範囚」と見なされる必要がある。急がば回れだ。

医師や看護師には絶対逆らわず、言いつけを守り、掃除や雑用に精を出した。「ここが私の終の住処です」と言わんばかりに。

半年後、チャンスが巡って来た。念願のゴミ捨て係に任命されたのだ。

ゴミ捨ての時だけは鉄の扉が開き、敷地外の集積所まで行ける。公道を10メートルほど往復するだけだが、逃げる機会は必ずある。決行は、看護師が少ない日曜日と決めた。

関連記事