旅好きセレクターによる旅へ誘う本紹介。今回はライター・編集者の小柳帝さんに選書してもらいました。

ページを捲りつつ感じる、
アーティストの精神の旅路

一見、ただの旅の記録のように見えて、その実、そこに旅人の心の旅の道程が重ね合わせられているような作品や本が好きだ。

祖国リトアニアだけでなく、アメリカの国内外を旅し、それを「日記映画」という形で映像化したジョナス・メカス。それは、祖国を失った寄る辺のない「亡命者」の魂の旅の軌跡でもあった。そのメカスの映像作品から数コマのフィルムを抽出し、それを印画紙に焼き付けた「フローズン・フィルム・フレームズ」という作品は、そのコマの前後に広がるメカスの長大な旅=人生の時間・空間を観る者に想像させてくれる。

フローズン·フィルム·フレームズ―静止した映画
ジョナス・メカス 著、木下哲夫 訳/フォトプラネット(1997)
自作の映像フィルムから選んだ数コマをプリントした作品と、当時の日記が交わる自伝的エッセイ。来日時のインタビューなども収録。

次に、先頃、原美術館で再現されたソフィ・カルの「限局性激痛」展の図録。日本などへの旅の途上で撮られた写真や綴られたテキストが、そのままカルの痛ましい失恋体験とそこからの再生へのプロセスを物語る。そしてこの図録だが、カレンダーのようなリング綴じのしつらえで、展示の内容を、カルらしく見事に造本化しているのも素晴らしい。

「限局性激痛」展図録
ソフィ・カル 著/原美術館(1999)
1999年に原美術館で開催されたソフィ・カル「限局性激痛」展の図録。虚実の判然としない不思議な旅の記録がまとめられている。

最後に、韓国の新鋭イラストレーター、ビョン・ヨングンの『Flowing Slowly』。東南アジアかどこかへ旅をした時のスケッチのような画集だ。写真を撮るなどの目的で初めは手放さなかったスマートフォンから解放され、少しずつ、自らの視覚的対象となっていた風景に、身も心も同化していく旅人の心象が、セリフを排したグラフィック・ノベルのような書き割りで静かに表現されていて美しい。

Flowing Slowly
ビョン・ヨングン 著/YOUR MIND(2018)
気鋭のイラストレーターによるグラフィック・ノベル。瑞々しい色、緻密なコマ割りで、美しいショートムービーを観ているような一冊。

PROFILE

小柳帝 Mikado Koyanagi
映画や音楽などを軸に活動するライター、編集者。著書に『ROVAのフレンチカルチャーA to Z』『小柳帝のバビロンノート』など。

●情報は、2019年9月現在のものです。
Photo:Toru Oshima Edit:Yuka Uchida