『赤毛のアン』の著者、ルーシー・モード・モンゴメリの生まれ故郷として、世界中から観光客が訪れるプリンス・エドワード島。モードが「世界でいちばん美しい場所」だと愛した風景は、今も変わらずそこにあります。小さな島に生まれた少女は、どんな逆境にも負けず、たくましく女性としての道を歩みました。光と花があふれる輝かしい初夏、その足跡を辿って、短い旅をしました。

『赤毛のアン』が生まれた
プリンス・エドワード島へ

アンが愛した「輝く湖水」のモデルはパーク・コーナーにあるとされているが、島のあちこちにそれはあるように思えた。

プリンス・エドワード島へ行くことが決まってすぐ、何の気なしにtweetしたら、仕事仲間や大学・高校の友人、なんと母親からも「アンの島!」という興奮めいた反応が秒速で返ってきて驚いた。正直に告白すると私はそれまできちんと『赤毛のアン』を読んだことがなく、少女の頃にちらりとアニメ版を見ただけで、それもほとんど印象に残っていない(ファンの皆さま、ごめんなさい!)。

それでも、アンが同級生のギルバートに赤毛をからかわれ、ノートがわりの石盤で彼の頭を思い切り打つシーンや、腹心の友・ダイアナに木苺水とスグリの果実酒を間違えて飲ませて酔っ払わせてしまう大事件(どちらも名シーンですね)はおぼろげに覚えていて、そのせいかアン=勝ち気でおてんば、少しおっちょこちょいな少女というイメージを勝手に持っていた。

成田空港から乗り継ぎを含めてゆうに15時間以上はかかるプリンス・エドワード島への道のり。いい機会だと思って、機内で文庫版の『赤毛のアン』を一気読みした。驚いたことに、ずっと子供向けの少女文学だと思っていたそれは、アン・シャーリーという女性のたくましく潔く、そしてしなやかな「女の一本道」を記した骨太な小説で、プリンス・エドワード島の空港に降り立つ頃には目の周りがガサガサになるくらい号泣し、共感し尽くしてしまったのだった。

グリーン・ゲイブルズの室内。カーテンやラグなどの家具もアンの時代に使われていたものを集めて忠実に再現されている。

著者のルーシー・モード・モンゴメリ(以下、モード)は1874年にプリンス・エドワード島に生まれ、海沿いの村キャベンディッシュで青春時代を過ごした。本が出版されたのち、モード本人が度々語っていたことから、『赤毛のアン』の舞台であるアヴォンリー村はキャベンディッシュとその周辺の集落がモデルとなったと考えられていて、キャベンディッシュには物語の中で孤児のアンがマシューとマリラ兄妹に引き取られて暮らした家が再現されている。

ここはかつてモードの親戚にあたるマクニール家が営む農場で、物語の中でアンが暮らした家・通称「グリーン・ゲイブルズ」や彼女が名をつけ愛した「お化けの森」など、周辺の環境はモードが過ごしたマクニール家をモデルにしたのではないかと言われている。家の中にはアンの部屋やマリラの部屋などが物語に忠実に再現されていて、ファンなら一度は訪れてみたい夢の空間になっている。

遅ればせながらアンファンの仲間入りをした身としては、とりあえず物語とモードゆかりのスポットを網羅せねばということで、島で一番のガイドであり、自身も大のアンファンというSさんに案内を頼んだ。なんとSさん、少女時代からの憧れを持ち続け、日本の大学卒業後に身ひとつでこの島に移り住んだという筋金入り。モードの歴史はおろか、全11巻もある『赤毛のアン』シリーズをほぼ暗記していて、取材する先々で引用をしつつ、熱いガイドをしてくれたのには恐れいった。