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「ヒドい台風が来た、翌年の桜」はあまり開花しない可能性

そのまま枯れ木になることも

哀しい運命

「日本の花」と聞けば、誰もが桜を思い浮かべるだろう。地名や歌謡曲をはじめ、日本人は古くから、生活のなかで桜に慣れ親しんでいる。

桜といえば「春」。歳時記には、「千本桜」「花明かり」など、桜に関連する単語が50を超えて記載されるが、そのほとんどは春の季語だ。

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ところが、実は、桜が咲く季節は春だけではない。9月の終わりから10月の初頭にかけて、満開となる桜がある。

といっても、秋にしか咲かない特定の品種があるわけではないし、まして「秋桜」の名を冠するコスモスのことを指しているのでもない。ソメイヨシノなど、ポピュラーな桜の品種でも、秋に咲くことがあるのである。

 

そもそも、桜はなぜ春に咲くのか。これは、冬を乗り越えるための、植物の知恵が関係している。

春が終わり、花が散った桜は、夏の間に翌春の花芽を作る。そのまま成長していくと、花芽は作られてから1ヵ月ほどで満開を迎えるが、桜の葉は休眠ホルモンを分泌し、一旦、花芽の成長を止めてしまう。晩秋に葉が落ちた後は、花芽は休眠を続け、樹皮に守られた状態で冬を迎える。

こうすることで、厳しい冬の寒さに曝されても、花が死なないのだ。その後、花芽は春の暖かさで休眠から目覚め、蕾となり、花が咲くのである。木蓮や桃など、春に花をつける樹木の多くは同じ仕組みで芽を守っている。

ところが、夏の間に虫害や台風などで葉が落ちてしまうと、休眠ホルモンが分泌されなくなる。すると、花芽が成長して、秋に花を咲かせるのだ。

一度秋に咲いた桜は、翌春には花をつけることはできない。場合によっては、厳しい冬の寒さで芽が死んでしまうこともある。「狂い咲き」とも称される秋の桜には、侘しく、哀しい運命が待つ。

酷暑も鳴りを潜めたこの季節に、早枯れの桜の木を見ると、枝先に蕾をつけていることもある。その木は、およそ1ヵ月後には、美しい薄紅色の花を咲かせる。紅葉に囲まれた、季節外れの桜を眺めるのもまた、風流かもしれない。(森)

『週刊現代』2019年9月14・21日号より