イギリスの政治は劣化したのか? 「EU離脱問題」の現在地

ジョンソン首相の論理矛盾に暴挙…
笠原 敏彦 プロフィール

議会閉会という暴挙を考える

ここで、ジョンソン首相の議会閉会という措置について少々踏み込んで論じたい。

この中世の暗黒時代を連想させるような暴挙は、イギリスの政治を考える上で非常に重要だと考えるからである。

ジョンソン首相が議会閉会を表明したのは、8月28日のことである。

イギリス議会の会期は通常1年で、慣例的に1、2週間の閉会期間をおいて新会期が始まる。

イギリスでは、政府が議会日程を決める実際上の権限を握るが、憲法手続き上、議会の招集や開閉会には国王の裁可が必要だ。

 

今回のケースでは、エリザベス女王の裁可を経て9日に議会はジョンソン首相が決めた通りに5週間の閉会に入った。

新会期が始まる10月14日まで、ジョンソン政権に対して議会のチェック機能が働かなくなるということである。

何が問題なのか。

〔PHOTO〕gettyimages

ジョンソン首相の新会期に向けた閉会措置は法的に争われているが、恐らく違法ではない。慣例を無視することでイギリス政治システムの根幹を著しく傷つけたことが問題なのである。

成文憲法を持たないイギリスでは、歴史的に積み上げられてきた慣例を守るという大前提の下で政治は機能している。

だから、重要な慣例を破ることは、不文憲法の信頼性を貶め、「法の支配」を歪めるに等しいことなのである。

さらに言えば、今回の暴挙とて慣例化し、政治手法の一つになり得てしまうのである

成文憲法を持たないイギリスは、新たな事態に対応する法的柔軟性を持つ。グローバル化の下、AIやITなど科学技術の発達が急速な変化をもたらす現代社会においてはイギリスの強みだろう。

しかし、一方で、政治家の良心のタガが外れると、独裁的な政治手法すら可能にしてしまう危うさがイギリスの不文憲法体制には潜んでいるのである。

ジョンソン首相の反対封じのための議会閉会は、そのことを白日の下にさらしたと言えるだろう。

イギリス伝統の「ジェントルマン的政治」はもはや過去のものである。