サイレント映画が登場した20世紀初頭から作られてきた「西部劇」。1950年代以降、様々なジャンルの映画が登場し、社会文化が変わるなか、今や最も生産数が低いジャンルになってしまったが、それでも時代とともに変化を遂げ、数々の名作を生み出してきた。

そして、アメリカのそれぞれの時代が色濃く反映された西部劇は、「アメリカを映し出す鏡」でもある。ブッシュ、オバマ、そしてトランプ時代にヒットした作品を見てみると、アメリカのいまが浮かび上がってくる。

同性婚に反対するブッシュに挑んだ
『ブロークバック・マウンテン』

2001年から2009年まで大統領を務めたジョージ・W・ブッシュは、ハーバード・ビジネススクール出身とは思えぬ貧弱な語彙力と迷言、そして大量破壊兵器の証拠もなしにイラク戦争を起こしたことで国民の信頼を失い、退任するときにはアメリカ史上最低の支持率となった“嫌われ者”だ。

マサチューセッツ州法において同性婚が初めて合法化された際は、同性婚を禁止する憲法修正案を提出して、同性婚に反対したこともある。

そんな時期に大ヒットした西部劇が、『ブロークバック・マウンテン』(2005年)だ。2006年度のアカデミー賞で最優秀監督賞・脚色賞・作曲賞の3部門を受賞した本作は、故ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが、1960年代から1980年代の20年間にもわたる禁断の同性愛を切なく演じた傑作。

現代を舞台に、ガンマンや決闘が登場しない本作は伝統的な西部劇とはいえないが、今日を生きる人間的なカウボーイを描いた「コンテンポラリー・ウエスタン」といってもよいだろう。ブッシュの思惑とは反対に、当時の世論では同性婚への理解が進んでいたからこそ、本作は人々に大いに支持され、オスカーも獲得した。

実は、この2人のゲイの役はブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモンが軒並み断った役だったのだそう。その結果、当時はまだ若手俳優だった故ヒース・レジャーやジェイク・ギレンホールが演じることになったのだが、ハリウッドスターが同性愛者を演じたがらなかったことや、アカデミー賞の作品賞がなぜか授与されなかったところに、アメリカの保守的な側面も垣間見える。