新人小説家は期待に押しつぶされ、大阪から日本最北端へと逃げ出した

失われた小説をもとめて【1】
かけだしの作家、小説のネタをもとめて旅に出る。ゲーマーとしての人生や知見をいかした作品『電遊奇譚』『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』で鮮烈デビューした藤田祥平さん。作品をきっかけに多くの原稿依頼が来るも、筆が動かない。しまいには東京から大阪に逃げ帰り……むりやり飛び出した。車で日本最北端を目指す旅路の果てに、名作は生まれるのか――。
 

大雑把で無謀な旅のプラン

大阪を起点として、車で日本最北端を目指す。

あわよくば、その道中のできごとを、つぎの小説の題材にする。

以上が、私の立てたプランであった。

あまりにも大雑把。

あまりにも無謀。

うまくいくわけが、なかったのだ。

昨年の四月のことだ。積年の願いが通じて、はじめての小説が出版された。ああ、とっても嬉しい。

そして、そのおかげか、いろいろな出版社のみなさまから、なにか書いてくださいと、やんわり依頼をいただいた。飛び上がるほど嬉しく……震え上がるほど、恐ろしかった。

ひとりの本好きにとって、こんなに動顛することはない。おそろしいほど誠実な仕事でもって、私の人生をとても豊かにしてくれた人々が、さあ、こんどは君の番だ、好きに書いてくれ! と、笑顔で求めてくれるのだ。

期待と不安の板挟みになり、心身ともに、かなりまいってきた。

それでも、こんなチャンスはないと思った。

頑張ります、よろしくお願いします! と、よく考えもせず言ったまではいい。

さあ、やるぞ! とキーボードに両手を乗せて二時間、指がまったく動かない。灰皿に、なんのインスピレーションも生み出さなかった煙草の吸い殻ばかりが積もっていく。脂汗が浮きはじめる。幻覚が見えてくる。そのうち書見に逃げはじめる。町内放送が「夕焼け小焼け」のメロディーをバックに、「五時三十分になりました。よい子のみなさんは、おうちに帰りましょう!」とアナウンスを流す。

やはり東京はしっかりしとんなあ。防犯意識が高いねんなあ。かんしん、かんしん……とか、思い始める。

さ、日ぃも暮れたし、スーパー行って、麦酒買お。(冷蔵庫もないので、冷やしておけない)

そののち、四畳半の一間に戻って泥酔。

そんな日が、三ヵ月ほど繰り返された。

もちろん、麦酒ばかり飲んでいたわけではない。

毎朝、身体を引きずって、卓袱台のうえに乗せたキーボードに両手を乗せた。

指は、まったく動かなかった。

わりと早い段階で、頭のなかで警鐘が鳴りはじめた。

あかん。絶対にあかん。

これでは絶対にあかん。

焦りとともにますます心身は憔悴しはじめ、誰も暴飲を止める者のいない独居の無聊がひしひしと身に凍みてきたころ、町内放送のスピーカーが言った。

「よい子のみなさんは、おうちに帰りましょう!」

決定打となった。

昨年の七月、私は東京から大阪に逃げ帰った。

期待をかけてくださっている編集者のみなさんの誘いを受けて、顔を合わせる勇気が、もう、なかった。