茂木健一郎が斬る!日本の科学はクラウドファンディングで躍進する

市民と研究者が直接つながる新時代へ
突然ですが、あなたは日本の「科学者」が、普段どうやって研究費を確保しているか、気にしたことがありますか? 多くの研究者は、文部科学省などの「科学研究費用助成事業」、通称「科研費」を受けて、研究を行なっています。ところが近年、この科研費は減額傾向。企業からの支援も「すぐにビジネスに結びつく」研究に投じられがちで、研究者を取り巻く環境は、いっそう厳しくなっているのです。

そんななか、注目を集めるのが「クラウドファンディング」。科学の研究を、一般の人々が抱く「おもしろそう」という気持ちから、少しずつ支援することで前へ進めようという取り組みです。今夏オープンしたばかりの「ブルーバックスアウトリーチ」は、自然科学の研究支援に特化していることで話題となっています。

脳科学の分野で八面六臂の活躍を見せる茂木健一郎氏が、日本の社会と科学の関係を変えるかもしれないクラウドファンディングの可能性について、大いに語ってくれました。

茂木健一郎、科学系クラウドファンディングを体験

僕は小学校低学年くらいの頃から、ブルーバックスを愛読して育った。言わずと知れた、講談社の科学新書シリーズだ。

ある日、そのブルーバックスが新しいウェブサービスを始めたと知り、「どんなものかな?」と思った。するとびっくり、実に素晴らしいサービスである。日本の科学の未来のためになくてはならないサイトだと実感した。それが、「ブルーバックスアウトリーチ」だった。

ブルーバックスアウトリーチは、自然科学の研究者を応援することに特化した、クラウドファンディング・プラットフォームだという。

まずは、印象的な写真が目を引く、「マイクロロボットハンド」の研究者・小西聡先生を応援するページを訪れた。研究内容を紹介する動画が掲載されていて、再生すると、ちょっとした「ミニ講義」を聴講しているようだ。

内容が興味深いのはもちろんだが、何より研究者自身が、楽しそうに語りかけてくれるのがいい。自分の研究の話をしているとき、研究者が見せる笑顔は最高だ。ハッピーオーラというべきか、「熱中しているぞ!」という雰囲気が溢れ出ている。

ブルーバックスアウトリーチで現在受付中!

このマイクロロボットハンドでは、極小のものを触った感覚、つまり「触覚」を、使っている人間に伝えることまで実現しようとしているのだという。

「人間の脳は、自分が使っている道具を自分の身体の延長として頭頂葉で知覚している」という研究がある。人間に車が運転できるのもそのおかげだ。

このマイクロロボットハンドを使えば、ミクロの世界の中に自分の体が縮小して入っていくような感覚を持つことができるだろう。『ドラえもん』の劇中で起きているようなことが、現実になる日も近いのかもしれない。

現在、人工知能による画像処理やパターン認識といった「視覚情報系」の処理技術は進展が著しい。一方で、マニピュレータやアクチュエータといったいわゆる「操作系」の技術には、まだ課題が残るとされている。

このような技術の発展においても、小西先生のマイクロロボットハンドの研究は大きな意味をもつ研究となることだろう。

ブルーバックスアウトリーチで、同時に取り上げられている「毒キノコの研究」もとても興味深い。まず題材が「キノコ」というのがすでに面白い。

このページの研究紹介ビデオの出来も、とてもいい。研究者の井之上浩一先生の語り口も軽妙だ。研究室で自主制作的に動画を作っているようだが、クラウドファンディングという視点から見れば、こうしたビデオの出来不出来でも資金の集まり具合は変わってくるだろう。

僕は常々、日本の科学者の情報発信には、どこか物足りないものがあると感じてきた。たとえば、イギリスBBCが制作する科学番組と、日本の科学特番とでは、受ける印象が大きく違う。なぜか。その大きな理由のひとつは、日本の科学番組では「話し上手」だとされているアナウンサーやタレントが話の要点をまとめてしまい、科学者自身がきちんと語らない構成が多いのだ。

一方、BBCの科学番組などでは、科学的な内容は、研究者が自分の言葉で、いきいきと、しかしわかりやすく伝えている。日本のテレビ局では「科学者の先生はお話が上手なわけじゃないですから……」と大事なポイントを科学者以外の人間に語らせようとする傾向にあるが、今後は日本の研究者も、そんなことを言わせないプレゼン能力が必要になってくるだろう。

「一般の人に直接、自分の研究をわかりやすく伝えて、支援してもらうのだ」というクラウドファンディングは、研究者たちにとって、そうした能力を磨く、よき練習場となるはずだ。それがひいては、日本社会における科学者の情報発信のあり方を変えていくかもしれない。

論文謝辞に名前が載るのは、想像以上に「すごい」

ところで、これらのプロジェクトに共通するリワード(御礼)として、「論文のアクナレッジメント(謝辞)に名前が掲載される」というものがある。

実はこれ、想像以上にすごいことなのだ。「科学の発展に自分が貢献できた」ということが、論文という公式なものに、永久に残るのである。科学が好きな人にとっては感動ものなわけだが、そんなことが実現するチャンスに一般の方がめぐりあえるというのも、こうした科学系のクラウドファンディングの場以外には、想像しにくい。

一方で、一般市民からの支援によって研究を行い、それを論文に明記できるということは、研究者の側にも少なからぬメリットがある。

最近は、論文を投稿する際に「どこからお金が出たのか」、すなわちファンディングを明らかにしなければならない。研究テーマによっては「コンフリクト・オブ・インタレスト(利益相反行為)」が生じるおそれがあるからだ。