フランス「スカーフ事件」から30年、いまだ分断が加速する理由

ヴェール問題の争点はどう変化してきたか
伊達 聖伸 プロフィール

2016年夏には、ブルキニ論争が起きた。「ブルキニ」とは「ブルカ」と「ビキニ」を組み合わせた女性ムスリム用の水着。肌の露出は大きく押さえているが顔は見える。カンヌなど南仏の20以上の自治体が、浜辺などにおけるこの水着の着用を条例で禁じた。

背景には、前年にパリで2度起き、その後も頻発していたテロ事件がある。革命記念日の7月14日には、ニースの海岸沿いの道をトラックが暴走し、80人以上の死者を出した。犯人はいずれもムスリムで、フランス社会はあたかも集団ヒステリーの状態に陥っていた。

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国務院はブルキニ禁止条例を無効とする判断を下した。一方、ヴァルス首相は「ブルキニ着用はフランスにふさわしくない、胸を露わにする女性のほうがフランス人らしい」と受け取れる内容の発言をし、物議を醸した。

公共の場におけるヴェールやブルキニの着用の是非は、2017年の大統領選の争点にもなった。そして、今年2019年の夏、ブルキニ問題はフランス南東部にあるグルノーブルの街で再燃した。

 

6月、「市民連合」という団体に支えられた約10人のムスリム女性が、ブルキニを着て市営プールに入場した。プールの内規はブルキニを禁じていたが、女性たちは着用の権利を主張し、差別的規則を撤廃するよう求めた。

右派の代議士が、ブルキニは男女平等のフランスにふさわしくないとツイートすれば、極右政党の国民戦線を前身とする国民連合は、これはイスラーム主義の挑発だと批判した。

相手がブルキニなら、自分たちは素っ裸でプールに入ろうじゃないかとカウンターの運動も組織された。「イスラーム過激派に反対、みんなで裸になって市長を動かそう」との呼びかけに数人がプールに集まったが、全員服は着ていた。

グルノーブル市長は、ブルキニのような水着をどう取り扱うべきか、政府が明確な指針を示すよう求めた。首相や男女平等担当相は、規則の尊重を呼びかけた。法務大臣も内規があるときは全員が規則を守ることが大切で、法制化の必要はないとの考えを示した。

スポーツ省発行のガイドラインによれば、市営プールの利用者は「公役務のユーザー」であり、宗教を理由とする服装を規制する法律は存在しない。公序を乱さないかぎり、良心の自由の表明のほうが勝る。ブルキニを禁止しうる論理は、衛生または安全・治安の面にかぎられる。

ブルキニ着用の権利を要求する女性たちは、衛生面でも安全・治安上も問題ないと主張している。さらに興味深いのは、自分たちの主張は別に「宗教的信念」に基づくものではなくて、「すべての女性の自由」を守るためと述べていることである。