「望まない延命治療」は、なぜ医療の世界からなくならないのか

後悔している家族も多い
週刊現代 プロフィール

病院は「死の瞬間」までは決められない。では、どうすれば納得する最期を迎えられるのか。1000人以上の看取りに接してきた看護師の後閑愛実氏はこう助言する。

「医療も延命も、本人が生きたいと思う人生を支えるための手段の一つでしかないと考えるべき。

ただ、本人がそう思っていても、家族が患者さんの死に直面したときに、『本人は延命治療しないでと言っていたが、やはり少しでも生き長らえてほしいので、治療を続けてください』と、過度な延命治療を医師に求めることがあります。そうすると、家族の意向を優先することになりがちです。

望まない延命治療を避けたいなら、生前から、患者さん本人がその意思を示し、ご家族は患者さんの意識がなくなったときには、代わりにその意思を病院に伝えられるようにする。そう心がけておくことが必要です」

厚労省の'17年の調査によると、「人生の最期の医療について家族と話したことがある」と答えた人は、4割しかいない。このままでは、望まない死を迎える人とその家族はまだまだ増えることになる。

「死後の解剖」を受けるべきか

病院で苦しみながら死んでも、それだけでは済まされない。患者にはすぐ「死後の解剖」が待ち受けている。

「病院で亡くなった患者さんが受けるのは病理解剖。これは殺人事件が起きた際に行われる司法解剖とは別モノです。病理解剖は司法解剖と違い、遺族の了解が取れていることが大前提です」(病理医の榎木英介医師)

病理解剖は患者が亡くなった直後、医者から遺族に持ちかけられるケースがほとんどだ。死因を特定させることが遺族の納得にも繋がる――建て前ではそう語るが、実際には死体を使って研究がしたいという病院側の都合も大きい。

「遺族の了承が得られれば即刻、病棟から解剖室に移送されます。解剖台に載せられた患者さんは腹部と胸を開けられ、肺や心臓、腸や肝臓が取り出される。ご遺族の同意が得られれば脳を取り出すこともあります。それらを調べた後、標本を作ります。

解剖後、ご遺体の腹部には綿を詰めて縫合。2時間ほどで終了します。費用は患者さんひとりにつき25万円程度。実は、この費用はすべて病院持ちなんです」(前出・榎木医師)

夫の和田信二さん(仮名、享年88)の病理解剖を承諾した妻・文子さん(82歳)はこう語る。

「夫が肺炎で亡くなったのは半年前。1年以上にわたる入院生活の末のことでした。夫は肺炎を繰り返し、寝たきりの状態になっていた。ですが、少ない言葉でも意思疎通は図れていました。亡くなった当日の午前中もそうだった。

ところが、私がお見舞いを終えて帰宅した直後、『病状が急変した』と連絡がきたんです。急いで病院に引き返したときには、夫は息を引き取っていました。

医者から解剖を持ちかけられたとき、夫の死が急だったので、原因を知りたいと承諾しました。ですが解剖の結果、新たな死因は見つからなかった。それ以上につらかったのが夫の姿。

入院着を着てはいましたが、内臓が取り除かれて、衣服の上からでもお腹が落ち窪んでいるのがわかるんです。可哀そうなことをしたと後悔しました」

遺族からすれば、解剖を受けるか受けないかの判断は難しい。だからこそ、患者本人の生前の意思表示が鍵になる。

「遺された人たちにとって、解剖の判断を強いられることは厳しいことです。家族が亡くなった悲しみがある中で、医者や医療者から解剖を持ち出されても、正常な判断はできないでしょう。

そのためにも、患者が健康なうちに自分の意思を家族と共有しておくことが重要です」(医療ジャーナリストの増田美加氏)

たとえ解剖で死因がわかっても、亡くなった人は生き返らない。だからこそ、解剖を受けるかどうかの判断にも「準備」が必要なのだ。

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