今年5月以降、日本海に向けて連続してミサイルと見られる飛翔体を発射している北朝鮮。その軌道と飛距離、飛翔体を分析すると、これまでのミサイル発射とは明らかな違いがある。その違いには、日本の防衛上、決して看過できない北朝鮮の意図が現れているという。
5月以降の相次ぐミサイル発射の異常な多さ
北朝鮮は本年に入り、5月4日から9月10日までの約4ヵ月間で10回、少なくとも20発以上の短距離弾道ミサイル(北朝鮮が大口径ロケットと呼称するものを含む)を発射した。それぞれの報道を取りまとめると以下のとおりである。
発射日 |
ミサイルの種類×弾数 |
距離(km) |
高度(km) |
発射機(車両) |
5月4日 |
イスカンデル改等×2+α |
240 |
60 |
装輪式 |
5月9日 |
イスカンデル改×2 |
420 | 50 |
装軌式(クローラー) |
7月25日 |
イスカンデル改×2 |
600 | 50 |
装輪式 |
7月31日 |
大口径多連装ロケット×2 |
250 | 30 |
装軌式(クローラー) |
8月2日 |
大口径多連装ロケット×2 |
220 | 25 |
装軌式(クローラー) |
8月6日 |
イスカンデル改×2 |
450 | 37 |
装輪式 |
8月10日 |
北朝鮮版ATCMS×2 |
400 | 48 |
装軌式(クローラー) |
8月16日 |
北朝鮮版ATCMS×2 |
230 | 30 |
装軌式(クローラー) |
8月24日 |
大口径多連装ロケット×2 |
380 | 97 |
装輪式 |
9月10日 |
大口径多連装ロケット×2 |
330 | 60 |
装輪式 |
※距離は最長距離、高度は最高高度
これを見ると、本年5月以降の北朝鮮による短距離弾道ミサイルの発射は、ミサイルの種類もさることながら、発射方法も様々なバリエーションで行われていることが窺える。
一般報道では、米韓合同軍事演習などへの対抗措置だとか、韓国に対する示威行動であるとか、プロパガンダ的側面が強調されているが、北朝鮮にとってこれはあくまで副次的な効果であり、このような反響とは裏腹に真の目的は、あくまで戦術的な攻撃性能を向上させるということにあると考えられる。
様々な発射バリエーションが意味すること
まず、それぞれの飛翔体の種類を見ると、一つにはロシアの短距離ミサイル「イスカンデル」、または、それを元に北朝鮮が開発した「KN-23」(米国などにはそう呼称されている)がある。これらは、発射機(車両)などから少なくとも2種類(軍事パレードで確認されたものを含むと3種類)が確認される。
次に、大口径の誘導型多連装ロケット(北朝鮮の発表。短距離弾道ミサイルと実質的に同等)である。このロケットも発射機などから少なくとも3種類が存在すると見られる。
最後に米陸軍が保有するATCMS(Army Tactical Missile System)に酷似した新型の短距離弾道ミサイルであり、発射機を含むこれら全ての短距離弾道ミサイル又は大口径ロケットの種類は少なくとも6種類に及ぶものであった。
さらに、発射形態についても、飛翔体ごとに最適軌道による発射や、高度を低く抑えたディプレスト軌道、さらにその中でも高度帯を変化させて発射するなど、個別にミサイルやロケットの保有する機能を確認するため、飛翔形態を様々に変えて発射してデーター取りなどを行ったものと考えられる。
9月10日に発射された大口径多連装ロケットは、8月24日に発射されたものと同じタイプのものと見られるが、北朝鮮の報道写真(発射機の状態)から判断すると、3発が発射された模様である。
韓国国防部は確認された2発のうち1発は地上に落下した可能性があると発表していることから、3発射出したうち1発ないしは2発が失敗に終わったものと思われる。また、1発目と2(または3)発めの発射時(1発目から約20分後)の発射機の屹立角度が変化しているように見られることから、異なる軌道(高度帯)で飛翔させようとした可能性がある。
これまでの一連のミサイル発射のなかでも、特に注目すべきは7月25日に発射された「KN-23」と見られる短距離弾道ミサイルである。この日のミサイルは、最高高度50㎞というディプレスト軌道で600㎞飛翔していることから、これを最適軌道で発射させた場合には1000㎞近くまで到達する可能性があると推測される。
最大射程が1000㎞だとすれば北朝鮮の南東部から発射すれば、静岡県以西の(南西諸島を除く)日本の西半分までが射程圏内に入ることになる。
また、8月24日の発射を除き、すべてが最高高度60km 以下という弾道ミサイルとしては低い高度帯(ディプレスト軌道)で発射しているのは、イージス艦やイージス・アショアなどの(中間飛翔段階における)ミサイル防御(MD)システムである「SM-3」の迎撃高度(70km以上)を回避する狙いがあるものと考えられる。
加えて、今回のミサイルやロケットがすべて軌道変更可能な誘導型であったことから、低い高度帯の空気抵抗を利用するなどして、より効果的に軌道変更させることで迎撃ミサイルなどによる防御網の突破や、発射地点のかく乱を企図しようとしているものと見られる。
つまり、北朝鮮は短距離弾道ミサイルの発射について、トランプ大統領からお墨付きをもらったのを良いことに、新規に開発したミサイルやロケットの発射試験を加速度的に実施しているということなのである。
しかも、今回の一連の飛翔体のほとんどは初確認の短距離弾道ミサイルや大口径多連装ロケットであり、北朝鮮は米国との非核化協議の過程で、核実験や中・長距離弾道ミサイルの開発を(表面的には)凍結しつつ、一方で短距離弾道ミサイルなどに関しては重点的にその開発を促進していることが明らかとなった。
なお、8月の10日と16日に発射されたミサイルについては、米国製ATCMSの本体部分の設計が韓国の短距離弾道ミサイル「玄武(ヒョンム)-2」に流用されていることから、その技術が韓国から流出した可能性が十分に考えられる。