Photo by Getty Images

山中伸弥教授が教える「『発明』のために必要な2つのこと」

iPS細胞「秘話」と「これから」
2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授。iPS細胞の発明には、「ある2つの要素」が不可欠であった──。

山中教授はなぜ研究者になろうと決めたのか。そして、どのようにしてiPS細胞の発明に至ったのか。2019年8月22日、科学技術振興機構(JST)のイベント「『国際科学オリンピック日本開催』シンポジウム」にて、再生医療の現状をまじえつつ、「発明に必要な父母」を語った。

研究者としての原動力

私を医学の道に導いてくれた恩人は父親です。小さな町工場を営むエンジニアで、なかなかの男前でした。

山中伸弥山中伸弥教授と父親の写真

父親は仕事中に怪我を負い、その治療に必要な輸血によって肝臓をわずらってしまいました。私が中学生ぐらいの時です。

父親の病状は日に日に重くなっていきました。当時は治療法が確立されていなかったのです。私はその父親の勧めもあって医学部に進み、1987年に研修医になりました。息子の私にできることは痛み止めの点滴を打つぐらいでした。それだけでも、とても嬉しそうにしていたのを憶えています。

残念ながら、父親は私が医者になった翌年の1988年に亡くなってしまいます。享年58、私が25歳のときです。父親の死は、医者になりたての私にとってあまりにも大きい衝撃でした。

父親のような、今の医学では治せない患者さんを将来治せるようにしたい──。その思いを胸にもう一度大学院に入りなおして、イチから研究の基礎を学びました。

マラソンのような営み

亡くなった翌年の1989年。父親の命を奪った病気の原因が、アメリカにて判明しました。電子レントゲンで見ないと分からないような小さなウィルスです。今ではC型肝炎ウィルスと呼ばれています。

その後、世界中の研究室が努力を重ねた結果、「ハーボニー」と呼ばれる特効薬が完成しました。2014年にアメリカで販売が開始され、しばらくして日本でも発売に至りました。1日に1回、3ヵ月飲むと、99.5%の患者さんのC型肝炎ウィルスが消えてなくなる、本当に夢のような薬です。

ハーボニーハーボニー Photo by Getty Images

およそ40年前は不治の病であったC型肝炎ウィルスが、研究が進むとハーボニーのように画期的な治療法ができ、今では治すことができる。まさにこれこそが、私たち研究者の目指していることです。

ただし、研究者の仕事はマラソンのように長い時間を要します。C型肝炎ウィルスが発見されたのが1989年、特効薬が完成したのが2014年ですから、25年かかっています。

四半世紀の歳月が長いわけではありません。研究にはたいてい20年から30年かかります。私たちは、マラソンの中でも超ぐーたらマラソンのような、時間のかかる仕事に一生懸命向かい合っているのです。