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名倉潤の悲劇は他人事ではない…日本の慢性痛医療の知られざる事情

ヘルニア=慢性痛という大いなる誤解

ヘルニアと慢性痛は無関係

去る8月1日、お笑いトリオ・ネプチューンの名倉潤氏(50)が、頸椎椎間板ヘルニア手術後の侵襲(しんしゅう)によってうつ病を発症したため、リハビリに専念すべく約2ヵ月間休養すると、所属するワタナベエンターテインメントが発表した。

名倉氏は、慢性的な痛み・しびれを解消するために昨年6月、頸椎椎間板ヘルニアの手術を受け、術後わずか10日で仕事復帰。手術は成功して経過は良好だったにもかかわらず、「手術の侵襲という普通の生活圏にはないストレス」がもとで、うつ病を発症してしまったのだという。

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侵襲とは、簡単に言えば「心身に負担をかけること」。どれほど安全性の高さや低侵襲が売りの手術であっても、「手術とは、大けがや病気を治療するために、人為的にケガをさせること」なので、当然リスクや後遺症がつきまとう。ゆえに手術を受ける場合には、“本当に必要なのか”を十分に検討する必要がある。もちろん名倉氏も、耐えたがたい痛みからの解放と手術のリスクを精査し、迷いに迷い、安全で低侵襲な手術を行える名医を探しまくったに違いないのだが、「本当に必要な手術だったのか」と疑問を発する医師もいる。

 

「椎間板ヘルニアが、慢性の痛みの原因になることは決してありません」と断言するのは、慢性痛の名医として知られる加茂整形外科医院(石川県)の加茂淳院長だ。20年にわたり、日本全国から大勢の慢性痛患者を受け入れ、治療してきた実績を持つ。患者の多くは、複数の医療機関を渡り歩き、手術や代替医療をやり尽くした末に、ボロボロになった状態でたどり着くのだという。

「名倉さんの手術は不要だったと思います。(慢性痛の原因とされることが多い)椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は、これらによって、神経根が圧迫を受けているためにその神経支配領域に痛みやしびれが出ると説明されていますが、これは痛みの生理学が未発達の時代の間違った説です。未だにこんな説明をしているのは、あまりにも勉強不足です。

たとえば1995年に国際腰痛学会が出した論文によると、腰痛がまったくない人でもMRIを撮ると76%に椎間板ヘルニアが見つかり、逆にヘルニアがある人でも8割は、まったく痛みを感じていないことが分かっています。神経を圧迫しても痛みやしびれが起きることはありません。つまり、ヘルニアを取っても痛みがなくなることはないのです。手術で改善することがあるのは、麻酔によって、痛みの原因となっている筋肉の攣縮(れんしゅく・痙攣性の収縮)が治まる可能性があるからでしょう。ただし、また攣縮が再発する可能性もあります」(加茂医師)

1995年といえば今から25年近くも前の話だ。そんなにも昔から、「ヘルニアは慢性痛とは関係ない」ことが分かっているにもかかわらず、未だに手術が「何をやっても治らない、頑固な慢性痛の最終手段」のように行われているのはなんとも不思議だ。