京急踏切事故、鉄道運転士と技術者が語る「メディア報道への不信感」

憶測で語っても原因は見えてこない
川辺 謙一 プロフィール

被害は「小さかった」のか

次に、事故現場の写真からわかる被害の状況について聞いてみたところ、運転士は「衝突直前の速度はまだ調査中なのでわからない」と断った上で、「ただ、想像される速度のわりには被害が小さかったのではないか」と答えた。

一方、設計技術者は、トラック運転手1人が死亡、運転士と乗客あわせて35人が軽傷を負ったことに着目し、「被害は小さいとは言えない」と答えた。今回のトラックは、大きいわりに壁が薄い箱状の荷室を積んだ構造になっており、衝突する電車が受けるダメージが小さかったはずだからだ。それゆえ、この設計技術者は「今回衝突した電車は、衝撃を吸収する構造を採用していたのか」と疑う。

また、一部メディアは、「先頭車が重く重心が低い電動車(モーターがある車両)だったから、被害が小さく済んだ」と報じた。ある京急の役員は、電動車を先頭車にすることが衝突安全上有利であることを記事にまとめ、鉄道趣味誌に投稿したこともある。

 

しかしこれについて、設計技術者は「取ってつけたような理由に過ぎない」と答えた。先述の京急役員による記事を見せたところ、「定量的な考察がない」と、その内容の信憑性を疑っていた。

たしかに、鉄道総合技術研究所のような研究機関が、電動車と付随車(モーターがない車両)をそれぞれ先頭車としたときの衝突実験(シミュレーションもふくむ)を同一条件で実施し、その結果を公平に分析して導き出したとなれば説得力があるが、一鉄道事業者に過ぎない京急の役員が、実験もせずに、過去の事故事例だけでそう主張するのは無理がある。

少し専門的になるが、この設計技術者によれば、先頭車を電動車にする利点は、列車の先端や、列車の長さを信号電流で検知しやすいことだという。接地装置(車軸の両端に電気を流しやすくする)がある電動台車の位置が列車の先端や最後尾に近くなるからだ。

また、車両の重心値は、設計時に算出し、完成後も測定する。そのおもな使用目的は曲線通過と横風転覆を考慮することであり、踏切障害による転覆を防ぐために重心を考慮することはないそうだ。

ここまでの発言でもわかるように、二人とも、メディアの報道に対して不信感を抱いているようだ。