「デジタル人民元」で中国は世界のビッグブラザーになる?

人民銀行仮想通貨の持つ深刻な意味
野口 悠紀雄 プロフィール

世界のビッグブラザーに

AI時代において、マネーの情報は、新しい重要性を持つことになった。なぜなら、それを用いて「プロファイリング」(個人の属性、性格、嗜好、生活状況などを推測すること)ができるからだ。

ビットコイン型の仮想通貨では、管理者がいない。したがって、仮想通貨の取引情報は、暗号化されたアドレスでしか分からず、現実世界の誰がどのような取引を行っているかは誰にも分からない。

ところが、中央銀行が発行する仮想通貨の場合には、アドレスと本人の結びつけを厳密に確認することになるだろう。そして中央銀行がこれを管理する。したがってあらゆる取引を中央銀行が細大もらさずに把握する(前述のように中央銀行仮想通貨が「卸売」の段階しか担当しないとしても、末端の電子マネーでは利用者を特定している)。

こうして、個人のプライバシーなどは、全くなくなってしまう。

西側諸国では、この問題があるために、中央銀行の仮想通貨を導入することができない。影響が大きすぎるからだ。

 

しかし、中国の場合には、これがさほど深刻な問題とは考えられていない。

実際、「中国『超先進的電子マネー社会』の光と影〜一方、日本は何周も遅れ…」で述べたように、すでにアリペイという電子マネーによって国民の取引状況は詳細に把握されている。しかも、それを用いた信用スコアリングの作成も行われている。

この意味で中国は特異な国なのだ。

このようなプロファイリングにおいて、「考え方」や「国家政策に対する意見」が評価に反映されることは、十分に考えられる。

そうなると、反中国的な意見を持っている個人や企業は、低い点をつけられ、取引から排除することされることになりかねない。取引だけでなく、社会活動一般から排除される危険さえある。

こうした問題が中国でありうることは、懸念されていた。ただし、これは、あくまでも中国国内に限定されたものだと考えられていた。

しかし、仮想通貨の利用が国際化すると、これは中国だけの問題ではなくなってくる。

仮想通貨を利用する全ての人々が、国籍を問わずプロファイリングの対象になりうるからだ。

これは決して杞憂ではなく、現実に起こりうることだ。

ビックブラザーは、1つの国だけでなく、世界を支配しうるのだ。