「デジタル人民元」で中国は世界のビッグブラザーになる?

人民銀行仮想通貨の持つ深刻な意味
野口 悠紀雄 プロフィール

ソフトウェアで世界標準を握ることの意味

「対中貿易戦争の背景にある、アメリカの強烈な『歴史的危機感』とは」で、5Gや衛星測位システムなどの先端分野で、中国の躍進が目覚ましいことを述べた。中国は、こうした分野で国際的なインフラを提供しようとしているのだ。

仮想通貨も、その延長線上にある。マネーは、生活や経済活動のインフラそのものだからだ。

中国は、こうした基本インフラ分野において、世界標準システムを作ろうとしているのだ。

今後は、 AIを用いるさまざまな活動においても、中国システムが世界標準になっていくだろう。

歴史的に見て、中国(漢民族)は、軍事力で他国を征服し支配するのではなく、中華文化を他国に広めることを行ってきた。

それは、中国発のインフラと標準を、世界に広めることだと解釈することができる。そう考えれば、中国がいま行おうとしているのは、長い歴史を通じる中国の基本戦略に沿ったものだということなるだろう。

 

「標準」(Standard)を使うようになると、命令されるわけではないのだが、従わざるを得なくなる。

アメリカが第2次大戦後の世界において覇権を握ったのは、このような「標準」を掌握したからだ。

それは、アメリカの衰退が目立った1980年代においてすら、言えたことだ。「対中貿易戦争の背景にある、アメリカの強烈な『歴史的危機感』とは」で述べたように、1980年代に、日本の製造業の成長に対してアメリカは強い危機観を持った。しかし、PCや半導体をとってみると、アメリカは「ウインテル体制」という「標準」を確立することによって、日本のメーカーを打ち負かしたのだ。

モノづくりの場合にも、「標準」を握れば強くなる。

1980年代に、ビデオテープレコーダの規格として、技術的には優れているといわれたβマックスがVHSに敗北したのは、後者が「標準」になったからだ。

ソフトウェアの場合には、標準はもっと重要だ。それによって全体のシステムをコントロールしてしまうことになる。

そして、その標準に従わない限り、ビジネスを続けることができない。

このことは、米中貿易戦争におけるアメリカのファーウェイ排除戦略を見ると明らかだ。

ファーウエイの スマートフォンは、Googleが提供するアンドロイドをOSとして用いている。ところが、トランプ大統領の指示で、Googleがこれを中国企業であるファーウエイに提供できなくなる可能性が生じた(「いくらファーウェイを叩いても、中国は2040年『世界一の大国』になる」参照)。

Androidを利用できないことになると、ファーウェイのスマートフォン(海外向け製品)にとって致命的な障害となる。実際、顧客のファーウエイ離れ現象が顕著に起きていると報道されている。トランプは、これでファーウェイの息の根を止めるつもりなのだろう。

ファーウェイは著しく困難な立場に置かれている。必死で独自のOSを開発中と言われるが、簡単でなく、2、3年かかるともいわれている。ファーウェイがハードウェアの生産でいかに優れているとしても、ソフトウエアを握られたら、どうしようもない。

アメリカは、自らはハードウェアを生産しなくても、そのメーカーをコントロールできるのだ。