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「デジタル人民元」で中国は世界のビッグブラザーになる?

人民銀行仮想通貨の持つ深刻な意味

デジタル人民元が発行間近とのニュースがあった。

これが実現すれば、世界経済の基本インフラと標準を中国が握る可能性がある。すると、中国は世界を支配するビッグブラザーになりはしないか?

中国は2014年から中央銀行が仮想通貨を発行する研究に着手していた。人民銀行の「デジタル通貨・リサーチラボ」は、すでに52件の特許を出願している。

今年の8月上旬、中国人民銀行の決済局次官、穆長春氏は、同行がデジタル人民元を実現するためのシステムの完成に向けて取り組みを続けており、「完成が間近だ」と述べた。

詳細は明らかではないが、すでに中国で広く使われているアリペイやWeChatペイなどの電子マネーとの連携体制を作ることも考えられる。

Facebookが仮想通貨リブラ(Libra)の計画を6月に発表して以来、中国はデジタル通貨開発が緊急だとの認識を強めていた。中国人民銀行前総裁の周小川氏は、リブラが決済システムと国家通貨に対して脅威となると述べ、中国政府は「人民元をより強い通貨にすべきだ」と主張している。

 

デジタル人民元が世界通貨に

「中国『超先進的電子マネー社会』の光と影〜一方、日本は何周も遅れ…」(9月18日公開)で述べたように、中国では、すでに電子マネーが広範に普及している。

仮想通貨になれば、さらに大きく発展することが予想される。

電子マネーだと受け取り手になるのに承認が必要だが、仮想通貨ではそうした手続きは必要なく、だれでも受け取り手になれる。

また、電子マネーは、中国の銀行に預金がないと使えない。それに対して仮想通貨は、預金がなくとも自由に利用できるので、外国でも容易に使えるようになる(注参照)。

国際取引が低コストで簡単にできることも、大きな魅力だ。

では、デジタル人民元の国際的な拡大を、他国政府が「望ましくない」として阻止できるだろうか?

中国がリブラを排除することは、簡単ではないが、不可能ではない。インターネットの検閲を強化すれば、できなくはないだろう。

しかし、その逆は難しいだろう。利用を禁止しようとしても、そのための手段がない。

では、他国民は、「元の減価を危惧するからデジタル人民元を保有しようとしない」ということがあるだろうか?

確かに、それはありうる(とくに、先進国の国民は)。しかし、人民元は、新興国通貨のような深刻な減価は引き起こさないだろう。

世界には、ベネズエラなど、激しいインフレのために経済が破綻しかかっている国がある。これらの国の国民にとっては、デジタル人民元のほうが遥かに安定した価値保存手段になる。だから、国民は進んでデジタル人民元を保有し、日常の取引に使おうとするだろう。

一帯一路では、中国がさまざまなプロジェクトに投資する。

それとの関係で、デジタル人民元が広がる可能性がある。そうなれば、巨大な共通通貨が実現することになるだろう。

「アメリカが経済戦争の最強武器を捨てようとしている『愚かな事態』」で、「リブラ潰しで1番喜んだのは中国だろう」と述べた。

そして、Facebookのリブラ担当者であるデビッド・マーカス氏の言葉、「われわれが行動に失敗した場合、価値観が劇的に異なる人々によってデジタル通貨が支配されることになるだろう」を紹介した。 

その予言が、いままさに実現しようとしているのだ。

(注)国際決済銀行〈BIS〉は、2017年9月に発表した四半期報告で、中央銀行が発行する仮想通貨について報告した。その中で、中央銀行が発行する仮想通貨には、大口取引に限定した「ホールセール〈卸売〉型」と、誰でも利用できる小口の一般向けである「リテール〈小売〉型」の2つののものがあるとした。前者では、個人間や企業間の取引は電子マネーで行い、それらの間の決済や銀行との決済を中央銀行のデジタル通貨が担当する。外国人でも自由に使えるのは、リテール〈小売〉型のものにした場合だ。ホールセール〈卸売〉型のものである場合には、一定の制約が加わるかもしれない。