2019.10.11
# 化学反応

日本が誇る「あの資源」を使って、未来の医療を担う物質が誕生へ!

ノーベル賞の研究はここまで進歩した

「フッ素原子を含む医薬品は、代謝安定性が高く、体内で緩やかに分解される他、脂質に溶けやすいなどのメリットから医薬品の約25%を占めており、ドラッグデザインにおいてフッ素原子の導入は重要な戦略の一つです」と菊嶌。

フッ素を含んだ有機化合物を合成するにあたっては、例えばトリフルオロメチル化剤と遷移金属触媒を組み合わせた手法が開発されてきたが、反応プロセスが長く、コストがかかり、不要な金属塩が生成されるといった課題がある。菊嶌は、超原子価ヨウ素触媒を使った酸化的クロスカップリング反応を応用することでこれらの課題を解決し得ると考えている。

土肥准教授(左)と菊嶌助教授(右)
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「フッ素原子は医薬品だけでなく、農薬や、テフロンコーティングやタッチパネルの表面加工など機能性材料にも幅広く使われています。安全で安価、かつ環境に優しいカップリング合成法の開発は、工業製品の製造にも大きな貢献を果たすはずです」

そしてナノの世界へ……

土肥はさらに、超原子価ヨウ素を活用してナノサイズの化合物の新しい合成法を開発するという未知の領域に挑もうとしている。

ナノ分子(10-9m~10-8m)を合成するには、それ以下のサイズの低分子の結合を繰り返しつなぐ方法が一般的だ。だがこれでは反応プロセスが長くなり、効率的な合成法とはいいがたい。そこで土肥は、10-7~10-6mの高分子の共有結合部分を選択的に切断するというこれまでにない方法で、有用なナノ分子を合成しようとしている。

「その一環として取り組んでいるのがリグニンを原料として使った芳香族化合物の合成です。リグニンは、木の皮部分を形成する高分子化合物で、芳香環を多く含んだ構造をしています」

土肥は、リグニンの分子内の強固な炭素原子-酸素原子間の結合を選択的に切断し、有用な芳香族化合物のみを取り出す方法を探っている。

「これまでに超原子価ヨウ素酸化剤を常温下の水中で用いて炭素原子-酸素原子間の結合を切断し、有用な有機化合物を合成することに成功しています。リグニンも水に溶解することからこの手法を応用できるのではないかと考えています」

「こうした高分子の原子間の結合切断と従来の低分子の結合形成の双方向からナノサイズ分子の合成法を開発したい」と土肥。この新たな合成技術により、将来社会に革新をもたらす有機化合物が生まれるかもしれない。

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