100兆個以上!「おなかの中の花畑」は、我らを支えるパートナー

「腸内フローラ」は巨大パワーの小宇宙
清水 修, ブルーバックス編集部
竹田潔教授竹田潔教授

出生前の赤ちゃんには、胎盤を介して母親の免疫抗体が供給されている。つまり、生まれる前の赤ちゃんはお母さんの免疫によって外敵に対処している。しかし、生まれると、当然、母親からの抗体の供給が途切れる。実は、この時点で赤ちゃんの腸には腸内細菌がほとんどいないので、免疫はないに等しい。

その後、赤ちゃんの腸内細菌は少しずつ増えていき、それにともない、2年ほどかけて自前の免疫を活性化させていく。腸内細菌が増えていくことで免疫を獲得できるのだ(もちろん、よく知られているように、赤ちゃんは母乳からも免疫物質をもらうので、それも免疫活性化に一役買っているのだが)。

さらに、「腸内細菌がいなければ免疫を獲得できない」ということは、マウスの実験からも分かっているそうだ。

普通のマウス(腸内細菌がいるマウス)と完全無菌マウスを比較すると、8週間で大人になるまでの間に、普通のマウスは免疫抗体の数がだんだん上がっていく。しかし、完全無菌マウスは大人になっても抗体の数が全然増えない。その後、大人になった完全無菌マウスに腸内細菌を供給・定着させると、そこからだんだん抗体数が増えていく。

「腸内細菌がおなかにいると、免疫が活性化する。ぼくたちのおなかの中にたくさんの腸内細菌がいてくれて良かった。めでたしめでたし……というわけですが、実は、たくさんいるだけではだめで、膨大な数の腸内細菌の内容、構成パターンがとても大切なのです。

腸内細菌の構成パターンがおかしくなると、さまざまな病気を発症したり、免疫の活性化状態が変わってきたりします」

腸内細菌は1000種類以上存在するが、同じ地域に住んでいる健康な人はみんな、だいたい同じ種類のものを持っているそうだ。

この細菌の割合や構成パターンはさまざまな要因で変化する。

一番典型的な例は、食事内容による腸内細菌の変化。タンパク質を穀物から摂っているか肉から摂っているかで腸内細菌の構成パターンは変化する。戦前の日本人はタンパク質の源を穀物に頼っていたが、戦後は肉食が増えて食の欧米化が進んだ。だから、我々の腸内細菌の構成パターンは欧米人に似てきている。

また、食事の脂肪分が多いか少ないかでも腸内細菌の構成パターンは変わる。高脂肪の食事を続ければ脂肪を好む腸内細菌が増えていく。

さらには、栄養状態によって腸内細菌の数も変わっていく。そして、そのような食事内容の変化以外にも、ストレス、感染症、加齢などによって腸内細菌の構成パターンは劇的に変化していくのだ。

特定の病気と特定の腸内細菌に関連があることも多いそうだ。

関節リウマチにかかっている人の一部ではプレボテラ菌という腸内細菌が多くなっている。

また、新生児が将来、アレルギー疾患になりやすいかどうかの判断材料として「分娩の形態」があるという。疫学的には「帝王切開で生まれた子供のほうが明らかにアレルギーになりやすい」という報告があるとのこと
*Mitselou et al. J Allergy Clin Immunol. 142(5):1510-1514.e2, 2018.

分娩の時期に母親の膣には乳酸菌が急激に増えるため、経膣分娩で生まれてくる赤ちゃんが初めて飲み込むのは乳酸菌となる。帝王切開で生まれる赤ちゃんは最初に乳酸菌を飲む機会がなく、スタフィロコッカスという細菌を最初に飲むだろうと言われている。

一説では、この違いがきっかけとなって、将来の腸内細菌の構成パターンに違いが生じ、アレルギーの発症につながるという。

腸内細菌の構成パターンが変われば代謝物、すなわち栄養素の産生の割合も変わってくる。トリメチルアミン・N・オキサイドという代謝物が多いと動脈硬化になりやすいらしい。

さらに、なんと、自閉症までも腸内細菌の変化によるものではないかと言われている。腸内細菌の変化が脳神経系の発達に必要な代謝物の濃度を変えてしまい、神経の発達に影響を与えたり、消化管まで伸びている迷走神経という神経に影響を与えたりすると考えられているらしい。

我々の健康にこれほどまでも影響を与えている腸内細菌。目に見えないほど小さくても、10兆100兆の数のパワーは計り知れないものがあるのだと言えよう。

炎症性腸疾患の病理の解明を目指す

さて、腸内細菌に関する基礎的にして面白い話は十分堪能させていただいた。そろそろ、我々の素朴な疑問を竹田教授に尋ねてみよう……。

竹田先生、今日は2つ、うかがいたいことがあって来たのです。